第十二話
これで結界が解けるかどうかが決まる。それは言い換えれば世界を救う事ができるか死かが決まる。そんな場面に直面して緊張しない者がいるだろうか。だが、三人はいたって冷静に前を見据えていた。できないという可能性は頭の中から完全に除外されている。まだ、先はあるのだ。こんなところで躓いていられない。
「なにやら妙ですね……」
シェルが静かに呟いた。
「たしかに」
「うん、人の気配しなくない?」
建物内に人の気配がしないのだ。まるで罠に誘い込まれているかのような感覚に陥る。実際にこれが罠なのかは分からない。そもそも、自分たちを罠に嵌める理由もわからないし、ここは教会だ。
しかし、疑えばすべてが怪しく思えてくる。
「どうするんだシェル司教殿」
あくまでもここはシェルがリーダーなので、その判断を仰ぐ。
「……進むしかないだろう。ここで引き返すのは、なしだ」
二人はそれに同意して頷く。
止まっていた足を一歩踏み出した瞬間だった。
「動くな」
三人は身体をすくませて動きを止めた。頭の中は真っ白でどうしたらいいのかもわからなかった。それほど意識外から声をかけられる恐怖を思い知った瞬間だった。
「ついてこい」
その言葉で相手から敵意がないのがわかり、血の気が戻って行く。横に細い通路があった。その者はそこに立っていて、そちらを見れば既に振り返って歩き出していた。三人は相談する間もなく、後ろへと着いて行くしかなかった。
その場に到着するまで誰一人として口を開かなかった。
しばらく迷路のような通路を通ってひとつの部屋に入った。部屋の中は広く、そこにはひとつの椅子しかない。その者は十段ぐらいの階段を上がってその椅子へと腰を下ろす。そして三人を見下ろして言った。
「私に用があるのだろう」
威厳たっぷりに、まるで王のような振る舞いと言葉だった。
シェルだけがその者が何者なのかを理解している。階段の手前で片膝をついて見上げる。
「……教皇様、お願いがあって参りました」
「教皇様? この人が?」
サクラが驚きの声色でシェルが見上げる教皇を見つめた。
ロゼは何も言わずに視線だけを送る。サクラは自分もシェルのように膝をついて頭を垂れた方がいいのかと思って、シェルの横で膝を着こうとした。
「サクラ、そのような事をする必要はないよ。ただの人間だ」
それを一蹴して喧嘩のような言葉を間接的に言った。
「間違ってはいない。私もただの人間だ。誰もそのような振る舞いをせよと一言も言ってはおらぬ。その者が勝手に頭を垂れているだけだ」
「ふん」
少しは話がわかるとロゼは鼻で笑った。
「で? 説明はしてくるれるのか教皇様? こんな不審者をここに招き入れ、しかも護衛の一人もいない」
「護衛ならいるではないか」
教皇の視線の先にはシェルがいた。
「なるほど。教会の狗か」
「おい、そろそろ黙ってろ」
はいはいとロゼは両手をすくめた。ここからはシェルの出番だ。すべてがシェルにかかっていると言っても過言ではない。サクラとロゼに出来ることは何もない。
「お前たちは、そこに居てくれるだけでいい」
信頼の言葉を送り、本来の目的へと話を進める。




