第十一話
なるほど。それで合点がいく。そこには信頼関係がすでにあった。きっとこれまでも幾度となく二人で困難を乗り越えてきたのだろう。それが容易にわかる関係性だった。
「サクラです」
「……ロゼという」
魔女の自分が律儀に自己紹介をするのは何か変な感じがしたが、流れに身を任せることにした。ここは教会のど真ん中だし、ウィルはたしかにシェルとは仲がいいだろう。しかし、それがイコール自分と仲良くできるという構図は成り立たないのだ。
友達の友達は友達などという言葉は存在しない。
「で? なにやってんのさ?」
ウィルは右手を顎にあてて首をかしげる。何年も前に教会を飛び出して行き、それっきり音沙汰がなく戻ってきたと思えば魔女を連れて教会に入っている。何がしたいのかウィルには理解が出来なかった。
「世界を救うのさ」
その言葉にウィルの首がさらに曲がる。
「君はほんと昔からそうだ。過程をすっ飛ばして結果を言う。説明が下手」
不満げにため息をつく。
しかし、シェルは対照的に満足そうな顔をしている。これはわざとなのだろう。ウィルを単に困らせたい、もしくは先ほどの仕返し。きっとこの二人はいつもこうやって張り合っているに違いない。
「黒死病をとめるの」
そこにサクラが口を挟む。
「黒死病を?」
聞き返すウィル。サクラの答えはシェルと一緒で結果を言っているにすぎない。それを理解したロゼが正解を言う。
「教皇様に会いに来たのさ。結界を解いてくれってな」
「あぁ、なるほど」
ロゼの言葉にようやくウィルは理解した。今度は曲がっていた首が反対方向にグッと曲がる。
「シェル、君が何をしたいのか完全に理解したけど……。厳しいんじゃない? でも君ならなんとかなるかもしれないけど、君だからどうにもならない可能性もある。それ、わかってるでしょ?」
「もちろん。勝算はる」
「君の勝算はあてにならないよ。それで僕がどんな痛い目をみてきたことやら」
どうやらウィルはすべてを理解したらしい。それをふまえて厳しいという答えを導き出した。
「でも、ま、行動しない事には何も始まらないのも事実。僕も協力しよう。教皇様のところまで僕も一緒に行くよ。君だけとか怪しくて仕方がない」
司教のくせに教会から何も信用されてないのかとロゼは呆れた。
それからウィルの後ろ盾もあり、教皇がいると思われる建物の前へとたどり着いた。道中、ウィルがいなければここまではたどり着いていなかっただろう。シェルの信用のなさがうかがえた短い旅路だった。
「さてさて、到着はしたけども、はたして会えるものなのか」
「会えないものなの?」
「まぁ教皇様だからねぇ。ただの司教が普通は会えないよ」
「じゃーどうするつもりなんだシェル司教殿」
視線がシェルに集まる。
「正面突破」
その言葉に三人は渋い顔をした。
「もしかしてそれが作戦?」
「会ってくれと言っても絶対に無理だろう。しかし、会ってしまえば話は聞くはずだ」
「まぁ、たしかに君ならそれが可能だろうけど、道中が、ねぇ」
深いため息をはく。幼い頃からこんな感じだったのだろう。ウィルの苦労がまた垣間見えた瞬間だった。
会ってしまえばなんとかなると言うが、それに関しては誰も何も聞かなかった。力で脅すのかと少し思ってもしまったが、そこだけは何やら自信があるみたいだ。ウィルだけが真意を知っている。
「僕はここまでだよ。さすがに反逆者になりたくないしね」
「それでいい。まぁどっちにしろ、黒死病を止めないとここもいずれは呑み込まれるだろう。その内みんな死ぬさ。遅いか早いかの問題だ。だったら俺は可能性に賭ける」
「カッコイイこと言ってるけど、物事にはしっかりと考えれば抜け道があるもんだよ。僕は友達が処刑されるところを見たくはないなぁ」
まるでこれが最後の別れになるかのような表情をして二人は会話をする。しかし、いつまでもそれを続けるわけにはいかない。三人には目的がしっかりとあり、それを達成するには前に進むしかないのだ。
「ま、頑張りなよ。僕はここで中に人が這入らないように少しでも時間を稼いであげるよ」
手をひらひらと振る。さすがに同罪にはできない。シェルはそれを承諾する。
「あぁ、またな」
「また、ね」
三人は覚悟を決めて建物の中に這入ったのだった。
最後に更新したのが去年の七月とゆー・・・申し訳ございません。これから結末に向けて更新していこうかと思っております。




