第七話
まず、シェルが一番最初に思った事は会話を聞かれた可能性だった。次にいったいいつからそこに居たのか。すべて最初から見られていたのではないか。そして最後に、一番会いたくない司教に出会ってしまったという事だった。
「バスティー司教……」
声のした方に顔を向けながら名前を呼んだ。どうか間違いであってほしいと切に願いながら。しかし、自分の声の記憶は正しかった。そこには司教らしからぬ不敵な笑みを浮かべる一人の男が立っていた。その笑みはすべてを見透かしているかのような笑いだった。だからシェルはバスティーが嫌いだった。わかっている癖に自分からは何も言わない。ただ笑うだけ。それがたまらなく気色悪かった。
「なんだ、生きていたんですね。音沙汰もなく飛び出して行ったきり、もう死んでいると思ってましたよ」
悪気があるわけではなく、本心からそう思っているのだろう。それが伝わるからこそ嫌悪感を覚える。
「……この通り、生きてますよ」
「まぁ、そうですね、おかえりなさい。と言っておきましょう。それよりも」
バスティーの視線はシェルから流れて、繋がれているロゼへと向けられた。
「なぜそこの魔女を殺さないんですか?」
やはりロゼが魔女だと一目でわかるのだ。そして魔女は駆除するもの。バスティーが一歩前へと歩みを進める。それは人生が終わる瞬間の死が近づいてくるような感覚だった。
「これは情報を多く持っています。より多くの魔女を滅するためには生かしておいた方が得策だと判断しました」
「考えるより先に殺せ。これが普通じゃないっけ?」
シェルの返答にバスティーは反論する。次の足が地面を踏みつけ土が鳴く。
「それなりに強く、苦戦しましたので考える時間ができましてね」
「ふ~ん。あーそうか、なるほどね。君のことだ。情が湧いたんだろう?」
「今、バスティー司教が思っている事の可能性はゼロですよ」
「へぇー、僕が思っている事がわかるの?」
「わかります」
「じゃー、次に僕がどういう行動するかもわかりますね」
まだ距離は十メートルはあっただろう。人の動きだとは思えないほどにバスティーは距離をゼロにした。その尖らせた手がロゼの目を覆い隠す布に触れる瞬間、それは止まった。




