第五話
アドミラル大聖堂は大きな外壁で囲まれている。そしてそれが何重にもなっているのだ。それはどんどんと敷地を拡げていった為にそうなっている。内側の壁は壊さずにそのまま利用されている。その扉の前では門番が見張りをしていて、通行書を確認している。そしてその門番のほとんどが罪を犯した罪人たちだ。心を入れ替え、教会の指示の元に仕事をしている。すべての司教たちには司教専用の通行書を持っている。そして一般人もそれを持ってはいるが、それによってどの壁の内側まで這入れるかが決まっているのだ。もちろん司教たちや教会関係者制限はない。主に関係があるのは罪人たちだろう。司教と同伴ならば中心部まではいけるが、一人では行けないようになっている。だからアドミラル大聖堂の本堂ではなく、個別に建てられた教会で祈りを捧げるのだ。そして認められて壁の内側に入るのを許されていく。
つまり信頼があるかどうかが、その通行書によって決まる。
「この通行書があれば問題はないのですが、出来る事なら他の司教と会わずに中心部まで行きたいですね」
「無理だろ」
「……俺もそう思う」
大きなため息をシェルは吐いた。いったいこのアドミラル大聖堂に何人の司教がいるのだろうか。ここの住人の半数以上は教会関係者だ。誰とも会わずにはいられない。そしてもし、不審だと思われたら即刻伝達がいくだろう。そうなればシェル自体も危なくなってくる。
アドミラル大聖堂の一番外の外壁から少し離れた人気のない場所で三人は最後の相談をする。
「おい魔女。両手を前に出せ」
ロゼは反論もせずに言われた通りにした。するとシェルはロゼの手をロープで巻き始めた。
「見た目はしっかり結んでいるように見えるが簡単に外れるように結んだ。最悪なにかあったら自分でほどけ」
「わかった」
「あと目隠しもするぞ」
「いいだろう」
その光景を見てサクラだけがニヤニヤと笑っている。出会った頃の二人だったら確実にここで喧嘩になっただろうし、拒否をするはずだ。それがないというのは少しは相手を信頼し始めている証拠だろう。しかし、それを言えば二人は反論するのでサクラはそっと胸の内にしまった。
「サクラ、この棒を持っていてくれ」
「はーい」
ロゼがいつも持っている自分の身長よりも高い鉄の棒をサクラはもらい受ける。
「そんなもん捨てちまえよ。棒を持ち歩くとかガキかよ」
「……シェル司教殿、気が付いてないのか」
「あぁ?」
いや、なんでもないとロゼは言う。気が付いていないなら言わなくていいだろう。これが何なのか知ったらきっと教会に返せと言うのが目に見えている。
「よし、行くぞ」




