第二話
「たしかに、そのような輩は存在するでしょう」
シェルが己の罪を告白するように重く口を開いた。
「だからこそ、私みたいな司教もいるのですよ」
「司教様が、そういった罪人さんを監視してるってこと?」
「まぁ、監視、とは少し違うかもしれませんが、司教の仕事にも色々あるのです。その為に数多くの司教や大司教がアドミラル大聖堂にはいるのです。あそこの住人の半分以上は教会関係者ですから」
「ふん、よく言ったものだなシェル司教殿。いったいあそこに行った罪人のうち何名が行方不明になっているやら」
「平和と秩序を護るのが俺らの使命だ」
「使命ねぇ」
世の中は綺麗な事ばかりではない。むしろ汚い、理不尽なことの方が多いだろう。サクラもそれは知っている。
「わたしは、正しく生きれてるかな」
ぽつりとそんな事を呟いた。
「お嬢さんは大丈夫だと思いますよ。私が保証します」
「君の保証にいったいどれほどの価値があるというのかね」
「はいはい、喧嘩しないー」
にらみ合う二人の間に割って入る。もうこんな事は慣れたものだ。今では言い合う二人を見るのも嫌ではなかった。出会った時と違う。
どんなに嫌な事を言われても言っても、言い合うだけなのだ。前ならすぐに手が出ていただろう。しかし、今では言い合う言葉に怒気は乗っていないように見える。
二人もそれがわかっているように見える。それを楽しんでいるかのようにすら見える。サクラはそれを見て内心ほくそ笑むのだ。
あぁ、心地良いと感じる。
世界は悲鳴をあげ、死がどんどん広がっていく中で、こんなにも幸せを感じていいのだろうかと。別にこのままでもいいのではないだろうかと悪魔が囁く。
いや、と思いとどまるのはいつもの事。
「きっと黒死病が止まればもっともっと幸せがやってくるよねっ」
「えぇ、もちろんですとも」
「そうだな。より良い世の中になるだろう」
仲間も肯定してくれる。だったら――。
「進もう! 前へ!」
後ろ髪を引かれ、振り返るのも悪くはない。だが、前へ進む歩みは決して止める事はない。
「あと少しでアドミラル大聖堂に着くでしょう。覚悟は、よろしいですね?」
確認のような、脅しのような、そんな言葉をシェルは投げてくる。
「うん」
「うむ」
二人は間髪入れずに返事を返した。
「では、参りましょう。どんな事があっても心を強く、決して熱くならず、冷静に対処すれば、道は開かれるでしょう。苦に繋がる道であろうとも笑って進めるぐらいの心を持って」
「随分と司教らしい事を言うじゃないかシェル司教殿」
「うるせー。らしいじゃねーよ。本物の司教様だ」
サクラは笑う。
この三人なら大丈夫。
そう思いながらまた一歩と、足を前に出すのであった。




