第一話
アドミラル大聖堂。
その歴史はとても古い。普通は国の中に教会があるものだが、アドミラル大聖堂は違う。その場所には教会しかない。国の広さ全てが教会の建物であり所有物だ。もちろんそこには王などは存在しない。司教がいて、大司教がいて、教皇がそこに存在する。教会という概念の一角を担うのがアドミラル大聖堂だ。
「そして、そこでは罪人ですら扉は開かれるのです」
「どーゆーこと?」
「アドミラル大聖堂に来れば、すべての罪は洗い流され清められるのです。神の赦しがそこにはあり、人生がやり直せます」
「ふへぇー、すごいんだね」
たとえ人を殺めた罪人であろうともアドミラル大聖堂に行けばすべてが許される。そして他の国はそれに対して口出しが出来ない。古くからある教会の力は絶大で、そのルールを破る事などたかが一国に出来はしないのだ。
「一般的には聖域、と呼ばれたりもしますが……」
そこまで言ってシェルは言葉を切った。その続きを言うか言うまいか悩んでいるのだろう。それを察したロゼが代わりに口を開く。
「シェル司教殿の口からは言いにくいだろうから私が言ってやろう」
それに対してシェルは何も言わなかった。かと言って感謝するわけでもない。
「罪は洗い流される。だからと言って人間がそう簡単に心を入れ替えれると思うか?」
「うん? それって……」
サクラは賢い。そこまで言われればその何を言わんとしているかわかる。
「そうだ。罪人が人を殺めたのにそこに居ればのうのうと暮らしていけるのだ。それをどう思う」
「うん? うん。う~ん、それは、難しい問題だね」
「罪人がまた罪を犯す確率はどれぐらいあると思う? はたまた、その聖域内で罪を犯している可能性はどれぐらいあると思う? そしてそれが世に出回らないのはどうしてだと思う?」
本当に心を入れ替える罪人もたしかにいるだろう。むしろ本当にそっちの方が多い可能性だってある。
しかし――。
確実に、確実にうわべだけで反省もしてない罪人がいるのは事実だろう。百人の罪人がいれば一人は確実にそんなやつが居ると言っても過言ではない。世界はそんなに甘くない。物語の世界のように誰も彼も綺麗事ではないのだ。




