第十四話
悩むサクラとは違って、その身体は勝手に動く。
「ロキ?」
問題ない。いけ。
ロキがそう言っているのがわかった。ならサクラはそれを信じるしかない。相棒がそう言っているのだ。ならそれを信じる。サクラは真正面からネルに突っ込んで行った。
「ふん、終わりだ」
ネルの波動がサクラを絡めとる。普通ならそれで終わりだ。
しかし――。
それは単純な話だった。十よりも百の方が数は多いしデカい。それを上回ればいいだけの話だった。
ワーウルフと化したサクラの内から爆発的な波動が放出された。それの質量は濃厚で、ネルの波動を吹き飛ばす。
「莫迦な!」
「あはっ、言ったでしょ? わたし強いって!」
爪を立て、振り下ろす。しかし、それが当たることはなかった。
「あれ?」
不自然なネルの動き。それは物理の法則を無視していた。
「なるほど。自分自身も操作できるって感じ?」
波動が絡めばそれがなんであろうと関係がない。それは自分自身も含まれるのだ。
ネルは無言で下にいるサクラを見つめる。そして少し離れた場所へと降り立った。
「まったく、リリーはめんどうな代物を残したものだ」
「波動の強さなら負けないよ!」
二人は視線を外さずに見つめ合う。
「お、おい魔女」
いつの間にかシェルはロゼの隣に来ていて呼びかける。
「なんだシェル司教殿」
「お嬢さんって強いんだなっ」
語彙力が著しく低下している。視線はサクラに注がれているし、まだ鼻血は止まっていないらしい。それをロゼは横目に呆れ顔だ。
「この状況でシェル司教殿はお気楽だな」
いつもなら売り言葉に買い言葉で喧嘩が始まる場面だった。しかし、シェルの耳に言葉は届いていても導火線に火がつく事はなかった。それ以上の炎が着火しているのだから。
「強さは多種多様だ」
ネルは言うなり自分のまわりにガラスの破片を集めた。サクラはそれが無数に向かってくると予想して足に力を込めるが、その予想は外れた。
破片だったものがどんどん一つの塊へと凝縮されていく。ネルの力はモノ自体の操作だ。つまり、組み換え、製錬し、創造する。そこにはガラスで創られた大刀の剣がサクラに切っ先を向けていた。
「いっ!?」
あんな大きな刃物を見たことはないし、当然ながら向けられたこともない。身体の芯が震える。これがきっと恐怖なのだろう。あれが直撃すれば死が待っている。サクラが行動をするより早く、それは吸い込まれるようにサクラに向かって行った。
「ちょっちょっちょっと、待っ――」
そんな言葉は意味をなさない。サクラはギリギリで躱した。
が――。
ガラスの剣はそのまま通り過ぎることなく。その場にピタリと止まったのだ。
「やば――」
言うが早いか斬るが早いか。ガラスの剣はサクラを捕えたのだった。




