第十一話
「ふん。くだらぬ」
結界を解かれたネルは命令を下す。
「雲竜石、そいつをそのまま捕まえていろ」
元主の言葉に反応する雲竜石。
「いや、降ろせ雲竜石。今すぐシェル司教殿を地面に降ろすんだ」
雲竜石はロゼを見る。
「お前を生み出したのは誰だ雲竜石。私に従え」
ネルの低い声が雲竜石の耳に入る。
「ダメだ言う事を聞くな!」
完全に板挟みになった雲竜石はどうする事もできない。つまりそのまま動く事が出来なかった。つまり、ネルの勝ちだ。
しかし、二つの譲れない選択肢を壊す事は出来る。それは――。
「雲竜石、よく司教様を助けてくれたね。こっちにおいで。頭撫でてあげる」
サクラが救いの言葉を雲竜石に投げた。
「ちっ」
ネルは不快に舌打ちをした。
雲竜石はどうする事も出来ずにいたのでサクラが神にでも見えただろう。頭を撫でられてご満悦だ。
「司教様、大丈夫?」
「えっ? ぇえ、まぁ、はぁ……」
まだ自分の目が信じられずに自分を助けてくれたドラゴンを見上げる。
「あんまり無茶しちゃダメだよ」
その言葉が聞こえているのかも疑わしく、完全に呆けている。しかし、まだ終わりではない。その緊張の糸がピンと張ったのはネルの言葉だった。
「ただの司教が使えていい力ではないな」
シェルはすぐに体制を整えて前を見据え、サクラの前にでた。しかし、その表情は青ざめていた。
「司教様?」
「……今すぐ逃げてください」
「えっ?」
「おい、魔女。お前の師匠とか言ったか」
「あ? あぁそうだが」
突然何を言い出すのかと思い、ロゼはしどろもどろに答えた。
「お前、知ってんのか?」
「何をだ?」
ロゼの表情を見るかぎり、嘘をついているようには思えなかった。
「……昔、古い文献で見たことがある」
「何を?」
いったい何を見たのだろうとサクラは首をかしげる。
「念動力を使う魔女についてだ」




