第八話
ありえない事は今まで散々見て来た。
「教会がどうとか、魔女がどうとか、そーゆーんじゃなくて個人の問題だよ!」
ロゼとシェルは何も言い返せずにいた。口を開けて何か言おうとしても、言葉が出てこない。
「リリーの娘よ」
代わりにネルが口を開く。
「なに?」
見た目は自分よりも若い。せいぜい十歳ぐらいの子供にしか見えない。しかし、何百年も生きている魔女は波動が違う。
「お前のその考えは半分はあっているだろうよ」
「半分?」
「見方を変えればそんなものは容易くひっくり返る事を忘れるな」
忠告だ。
それを聞いたロゼはまた驚く。ネルという魔女はたった今会った人物にそのような忠告や警告をするような魔女ではない。きっとリリーの娘というのがあるのだろう。きっと最初で最後の忠告だ。
サクラは特に言い返す事もなく「わかった」とだけ言った。
「し、師匠――なら、ならその結界を解いてはもらえませんか?」
「お前は考えてものを言え。解いてどうなる。死が広がるだけというのがわからんのか」
冷たく言い放つ。たしかにそうだ。結界が解かれればすぐに貼りなおすという事は出来ないだろう。そして中へ這入ったと言って自分たちに何が出来るのだろうか。
ただ会いたい、とい気持ちだけでは世界は救えない。
「だいじょーぶだよ。きっと止まる。止めてみせるよ」
絶望するロゼにサクラは何を当たり前な事をと、軽く言った。
「なんの根拠があるというのだ」
その言葉を信用させたいのなら、その根拠を、その証拠を示せ。ネルはそう言った。
「ちょっと待ってね」
サクラはそう言うとカバンの中に手を突っ込んで何やら探し始めた。そしてほどなくして一つの瓶を手にした。
「これがあるから」
全員の視線がその手中に注がれる。
「なんだそれは」
「これはね、おかあさんが創った不老不死の薬だよ」




