第六話
神の采配という言葉がある。しかしロゼは魔女なのでそんな言葉は意味を持たない。だが、この時だけはそんな言葉を言われたら信じてしまったかもしれない。それほど会いたいと願った人物が目の前に現れたのだ。
「師匠? お姉さんの知り合いなの?」
サクラが小声でロゼに聞いた。しかし当のロゼはその言葉が耳に入っていなかった。それほどこの再会が衝撃だったのだろう。
「し、師匠……なぜこんな所に」
思わず駆け寄ってしまう。
あの時以来だ。友人を助けると言って恩人の下から離れたのは。自分から勝手について行き、勝手に離れた。自己中心的にもほどがある。身勝手な行為だ。だから罵られて拒絶されても文句は言えないだろう。
しかし、ネルは――魔女はそっけなく答えた。
「ふん。お前に関係があるのか」
普通なら拒絶の言葉だと思うだろう。しかしロゼはそれが拒絶でない事をわかっている。拒絶するならそもそも言葉を交わさないだろう。むしろ視線すら合わせないはずだ。だから単純に嬉しかった。
「師匠……」
言葉が出てこなかった。なんと言葉を繋げばいいのかわからない。師であり恩人の魔女だ。あれからの事を話したい聞いてもらいたい事はたくさんある。きっとネルはいつも通り興味がない顔をするだろう。勝手に自分が喋るだけだろう。相槌すらしてくれないだろう。
だが、その場からネルは離れずに無言で聞いてくれる。ネルはそういう魔女だ。
言葉を繋げられないロゼを目の前にしてネルは視線をロゼの後ろにやった。
「珍しいパーティーで旅をしているな」
ネルの視線はシェルを一瞬見て、その後サクラをじっと見つめた。
「……リリーは息災か?」
見た目が母親のリリーとそっくりなサクラをしっかり別人だと見抜いている。その事に表情一つ変えずに聞いた。
「おかあさん? あかあさんと知り合いなの?」
「あぁ、旧知だ」
ネルの質問に答えずに自分の質問を投げた。しかしネルはそれに答えたのだった。
「そっかぁ。おかあさん、たぶんおかあさんはもう……」
言葉を切り濁した。そこまで言えばその先に容易に予想できる。
「そうか」
ネルは一言だけそう返した。魔女の時は長い。しかし、それは終わりが来ないわけではないのだ。ネルはその事を十分にわかっている。だから深くは聞かなかった。




