第五話
この広い世界で人と出会うといのは簡単なようで難しい。しかも死の土地が近くにあるなら尚更だ。旧アルヴェルト王国を中心にそれは広がっている。対抗できるすべを人間は持ち合わせていない。ならどうするか。その場所を離れるしかない。
「近づくのはやめときな。もう誰も残っちゃいねーよ」
そう言ったのは道中で出会った商人だった。行商路だったらしいが人がどんどん減ってきて、もう行く意味がなくなったらしい。
アドミラル大聖堂に行くにはその町を経由する必要があり、そこで一泊と思ったがすでに廃れているという。
「まぁ一泊ぐらいならなんとかなるだろ」
野宿と同じようなものになるだろうが、別に問題はないとシェルは思った。少しの食糧があれば幸いだ。贅沢な事を言ってられない。自分たちは贅沢をするために旅をしているのではないのだから。
ほどなくしてその町に到着した。人の気配はするにはするが少ない。もうそのほとんどが逃げてしまったのだろう。町の出入り口にあるはずの町の名前の看板すらなかった。この町は完全に名前が消えてしまい、あとは黒死に呑まれるだけの憐れな町なのだ。
「とりあえず酒場に行ってみよう。何か食べ物が残されているかもしれない」
ロゼはそう思い提案する。それにサクラとシェルは同意する。
仮にここに何も食べ物がなくても問題ない。アドミラル大聖堂まであと少しの距離まで来ているし、旅というのは空腹が付きものだからだ。
酒場の前に到着して少しの期待を持ちながら扉を開ける。中に這入るとそこはもぬけの殻だった。誰一人いない、と思ったがカウンターの隅に人が一人座ってコップを握っていた。
そしてロゼにはその後ろ姿に見覚えがあった。
「し――師匠?」
声をかけられ師匠と呼ばれた少女はめんどくさそうに首を回す。
「……なんだ元人間」
そこに居たのは紛れもない魔女ネルだった。




