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魔女物語  作者: 夜行
第二幕
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第五話

 この広い世界で人と出会うといのは簡単なようで難しい。しかも死の土地が近くにあるなら尚更だ。旧アルヴェルト王国を中心にそれは広がっている。対抗できるすべを人間は持ち合わせていない。ならどうするか。その場所を離れるしかない。


「近づくのはやめときな。もう誰も残っちゃいねーよ」


 そう言ったのは道中で出会った商人だった。行商路だったらしいが人がどんどん減ってきて、もう行く意味がなくなったらしい。

 アドミラル大聖堂に行くにはその町を経由する必要があり、そこで一泊と思ったがすでに廃れているという。


「まぁ一泊ぐらいならなんとかなるだろ」


 野宿と同じようなものになるだろうが、別に問題はないとシェルは思った。少しの食糧があれば幸いだ。贅沢な事を言ってられない。自分たちは贅沢をするために旅をしているのではないのだから。


 ほどなくしてその町に到着した。人の気配はするにはするが少ない。もうそのほとんどが逃げてしまったのだろう。町の出入り口にあるはずの町の名前の看板すらなかった。この町は完全に名前が消えてしまい、あとは黒死に呑まれるだけの憐れな町なのだ。


「とりあえず酒場に行ってみよう。何か食べ物が残されているかもしれない」


 ロゼはそう思い提案する。それにサクラとシェルは同意する。

 仮にここに何も食べ物がなくても問題ない。アドミラル大聖堂まであと少しの距離まで来ているし、旅というのは空腹が付きものだからだ。


 酒場の前に到着して少しの期待を持ちながら扉を開ける。中に這入るとそこはもぬけの殻だった。誰一人いない、と思ったがカウンターの隅に人が一人座ってコップを握っていた。


 そしてロゼにはその後ろ姿に見覚えがあった。


「し――師匠?」


 声をかけられ師匠と呼ばれた少女はめんどくさそうに首を回す。


「……なんだ元人間」


 そこに居たのは紛れもない魔女ネルだった。


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