第三話
しばらく無言で歩き続けた。風景は特に変化もなく、退屈な道が続く。気候は悪くはない。太陽も高い位置まで昇って気温も上がってきた。そうなってくると自然と眠気が襲ってくるのは自然の道理だった。
「ふあ~」
サクラは我慢もせずに大きなあくびを一回。この眠気の誘惑に抗って何か人生に損な事があるのだろうか。歩きながら船を漕ぐ。
「しばし休憩しましょうか。だいぶ歩いたとこですし」
「さ~んせ~」
言われた言葉を理解しているのか、自分が何を言ったのか理解しているのか疑わしいほどの気の抜けた返事だった。
「どれぐらい来た?」
「まだ全然だ」
短いやりとりをして腰を落ち着ける。サクラは毛皮の上で意識を切り離していた。
「このまま教会に行ってもいいのだろうか」
誰に言うでもなくロゼは呟いた。どうにも何かが引っかかる気がする。
「行きたくねーなら引き返せ」
シェルはそれを冷たく払いのけた。どちらかと言えばロゼがいる事で状況は悪くなる可能性の方が圧倒的に高い。
「……何か見落としてる気がするだけだ」
「くだらん」
それでもシェルはそれ以上は何も言わなかった。拒否をしようと思えば出来るはずだ。それをしなかったのは、また逆の可能性もあると思ったからだ。
「私たちは妙な集まりだ。偶然が重なって今こうしてここにいる」
「だからなんだ」
「偶然が重なる事が奇跡だとすると――」
言葉を探す。しかし、答えは見つからなかった。言葉を繋げられずに沈黙をしていると横から新しい声がした。
「奇跡だとすると――あの出会いは必然だね」
出会うべくして出会った。
偶然は奇跡になり、奇跡は必然となる。
黒死病を止める為。
三人は出会う運命にあったのだ。
「わたしたちは一人じゃ黒死病を止められない。でも三人なら――」
サクラは希望に満ちた瞳で自分の胸の前にある右拳を見つめた。そこに不安など一切ない。止まるという事が既に決まっていると言わんばかりだ。
「すべては必然。わたしはそう思うよ」
ロゼとシェルの顔を見て微笑む。
あぁ、これが希望の光か、とロゼはその笑顔を脳裏に焼き付けたのだった。




