第二話
早朝。
町の朝は早い。すでに職人が朝日が出る前から行動しだしている。どこからともなく製錬の音が聞こえてくる。人もちらほら見かける。おそらく商人だろう。金のことばかりを考えて歩みを進める。時間には限りがある。その限りある時間の中で金を稼ぐことだけを考える。どうやれば利益が出るのか。どうすれば自分の懐に金が多く舞い込んでくるのか。
そんな商人を横目に三人は町を煙のように静かに出る。
「サクラ、大丈夫か? まだ眠いんじゃないか?」
「だいじょーぶだよ。昨日そのぶん早く寝たからね」
しっかりしている。さすがリンドウの娘だと内心つぶやいた。
「もうちょっと遅くても良かったんじゃねぇか?」
大きなあくびをしてシェルが異議を申し立てた。
「シェル司教殿、君は教会の人間だろう。教会はもっと朝が早いのではないか?」
「それが嫌で旅に出た」
「はぁ~……」
あくびではなく大きなため息を一つロゼは吐いた。
冗談のような本当のような話だ。冗談ぽく言っているが半分ぐらいは本当ではないのかとロゼは呆れた。あまり深く聞いても仕方がないので、その話はこれでおしまいだ。
「アドミラル大聖堂に……」
「あん?」
ロゼは言葉を切った。それにシェルに続きを早く言えと言葉を繋げた。
これは言うべき事ではないと思って言葉を切ったわけだが、それなら最初から言わなければよかったと後悔が押し寄せる。
二人はロゼの次の言葉を待って沈黙している。これは言わなければならないだろうと思い、重く口を開く。
「アドミラル大聖堂に、私達を連れて行って君は大丈夫なのか」
なぜ言いたくなかったのかというと、この言葉がシェルへの心配の言葉ととれるからだ。それをロゼは嫌がった。ただふと思っただけだ。決してそんなつもりではない。が、聞く相手はそうは思わないだろう。
「どうだかな。昨日言っただろ。絶対に俺の指示に従え。それ以上は何もわからん」
シェルは茶化すことなく真面目に答えた。
「変な指示を言わない限りは、従おう」
「左様で」
ロゼは自分の思考が信じられなかった。まさかそんな事を思うなどとは考えもしなかった。所詮、自分も元は人間だ。きっと人間としての感情が働いたのだろう。
それから三人の間に会話はなかった。空気が悪いとかそういった事でない。むしろ逆だろう。




