第十九話
「普通の人間が惑わされるならともかく、私たちが惑わされるとなるとこれは問題だな」
「それほど強力なやつがこれをしたって事だな。穏やかじゃねぇなぁ」
「ん~何回惑わされてもその瞬間がわからないんだよね。ロキがいるのにそれでもこうやって惑わされちゃうし。どうしよっかなー」
ふ~む、と三人は頭を悩ませる。
「とりあえず、あの村入っちゃおっか。ゆっくり腰を落ち着けて考えよ」
「そうしましょう」
「そうだな」
「ロキ、ごめん。戻って」
狼の姿のまま町へ這入る訳にはいかない。こんな大きな狼が目撃されたら大騒ぎになるだろう。ロキは毛皮へと戻り、サクラはそれを纏う。
町へと這入るとシェルはさっそく町の人に声をかけていた。どうしても確認をしたいのだろう。それを遠巻きに見つめるサクラとロゼ。話終わったのかシェルがこちらへと戻ってきた。その表情からは何も読み取れない。
「どうだったよシェル司教殿」
どうせシェルが考えているような事は何も起きてない。そう思っていた。
「……ん? あぁ、五日経っていた」
「うん?」
「はい?」
よく聞き取れずに聞き返す。
「いつか? どーゆー事?」
「お嬢さん、発音が違いますよ。五日です。ごにち、と言えばわかりやすいですかね」
「五日っ!?」
「シェル司教殿、私達を驚かしたいのはわかるが、この状況でそんな嘘をつくのはやめてくれ」
「…………」
沈黙が舞い降りる。
「……嘘じゃないのか?」
「神に仕える俺が嘘をつくわけねーだろ」
「うそー? ほんとにぃ?」
「残念ながら……」
記憶に途切れた場所はない。ずっと歩いていた。にもかかわらずに五日もの時間がいつのまにか過ぎていた。五日という時間は一瞬で過ぎるような時間ではない。その間の記憶がないなどありえない。
しかし、現状そのありえない事が起こっているのは事実だ。否定したいが、自分の身に起こっているので否定の仕様がない。
現実を受け入れるしかないのだ。




