第十三話
「これは私の言葉ではなく、神の御言葉です。必ずそうなるでしょう」
「ほんとー? やったー」
「はいはい。茶番はそこまでにして先を急ぐぞ」
右手を顔に当てて呆れる。この司教はなんとも司教らしくない。女好きだし口が悪い。そもそも本当に司教なのだろうかと考えていたら、ロゼは何もないところで足をとられて躓いた。
「おっと」
「何もないとこで躓いてやがるー」
皮肉たっぷりにシェルが煽る。
「シェル司教殿、君の仕業かな?」
「くだらねぇ事を言ってやがるから天罰だろ」
ざまぁみろと顔いっぱいで表現してくる。おお、神よ感謝しますと天を仰いでいる。こいつは本当に性格が悪いようだ。一度お仕置きが必要だなと握る鉄の棒に力を入れたときだった。
「ん」
と、サクラが左手をロゼに出してきたのだ。
ロゼは意味がわからずに首をかしげる。
「手」
「て?」
「うん、危ないでしょ? 手、繋ご」
そう言ってサクラはロゼの返事を待たずに手をとって歩きだす。ロゼはあいた口が塞がらずにシェルは後ろの方で悔しそうな顔をしている。
「……サクラ。君はなんとゆーか」
「なんとゆーか?」
「頼れるいい女になりそうだな」
「なにそれ」
サクラはそう言われて笑う。先ほどのシェルが言っていた意味がわかった気がした。さすがリリーとリンドウの子だ。将来が楽しみだと素直に思える。
「あっと躓いたー!」
大声をあげてシェルが盛大にこけた。視線はバッチリとサクラに向けている。
「おかしい。こんな何もないところでコケるなんて。これは悪魔の仕業かもしれない。一人で歩くのは危険だ」
地面に横たわったままシェルは、うんうんと首を縦にふる。わざとらしい事この上ない。もちろんロゼは気が付いているし呆れ顔だ。そうまでして手を繋ぎたいのかこの男はと軽蔑の眼差しを向ける。
「いいよ。司教様。おいで」
サクラはそう言ってもう一方の手をシェルに差し出す。
「いいんですかッ!」
こんな芝居をやった本人ですら相手にされないだろうと思っていたので予想外の返事に声が大きくなる。
「うん。いいよ。手は二つあるからね。はい」
「そ、それでは失礼して」
二人は手を繋ぐ。シェルは感動して今にも泣きだしそうだ。
「おお神よ。感謝します」
「神ではなくサクラに感謝しろサクラに」
シェルは聞く耳を持たずに天を仰いでいる。




