第十二話
意地悪な質問だ。それを聞いたロゼはとなりで唇の端を吊り上げて笑っている。
「愚問ですね」
シェルは躊躇う事なく真面目に言い放つ。
「一緒に死にましょう」
魔女を許すことは出来ない。だが、その前に知り合ってしまっている。どうする事も出来ないだろう。だから自分の命を諦めて責任をとって一緒に死ぬ。一人で死なせる訳もいかないし、助ける事も出来ない。だったらせめて自分だけは最後まで味方でいよう。
「司教様っていい人ね」
素直にそう思う。言葉に詰まる事なく言った。きっとそれはこんな時代だからこそ、ありえる事柄だからだろう。自分の結婚相手が魔女になってしまった場合。自分の娘が魔女になってしまった場合。何度その時のことを考えたのかわからない。
「まぁ、聖職者は結婚できないがね」
ロゼが横から口を挟むとサクラが「もうっ」と頬を膨らませた。
「好きな相手が出来て生涯を共にしてもいいと思えたなら、司教なんぞ辞めてやりますよ」
「なんとも罰当たりな答えだな」
「うるせぇよ。これが俺だ」
シェルもしっかりと信念を持って生きている。
考えが変わることは珍しい事ではない。それに直面した時にどう考えるかだ。自分の天秤はいったいどちらに傾くのだろうか。
「不良司教だな」
ロゼは眼を閉じ頷くように笑った。
「いい司教様だよ。出会えてよかった」
「お嬢さん、それはプロポーズですか?」
胸の前に両手を合わせて眼を輝かせるシェル。
「さぁ?」
「ぐはっ」
どうやらシェルの心に一本の矢が刺さったようだ。サクラはそれを見てニヒルに笑う。完全に年下であろう少女に手玉に取られているがシェルは悪い気はしない。
それを見てロゼは呆れて笑う。
「シェル司教殿。男だろ。言い返してみろ」
倒れたシェルはゆっくりと立ち上がりサクラを見据える。
「貴女は将来いい女になるでしょう」
ダメだこれは。完全に舞い上がっている。




