第九話
「まぁサクラはすぐに魔女の波動を感じることは出来ると思うがな」
「う~ん。わたしそういうの得意じゃなくって」
「お嬢さんお嬢さん。こいつみたいに気持ち悪い感じを感じとればよろしいんですよ。こうモヤモヤするでしょ? それが波動です」
「司教様はわかるの? 波動」
「それは当然わかりますよ。慣れれば意識せずに感覚だけでわかるようになります。ある程度離れていてもわかりますし、それに人それぞれで少し波動の感じが違いますよ」
「へ~、すごーい。そんなことまでわかるんだね」
「訓練すれば出来ます。まぁ先天的なこともありますが、ある程度は後天的に身につくと思いますよ」
「今日から一緒に練習しような。私と!」
「いやいや、こんなクソ魔女の教えなどいりませんよ。私がご教授致します」
二人とも額に血管が浮き出て見える。サクラは二人の扱いがなんとなくわかってきたので答えを言わずに次の話に移る。
「とりあえず三人でアルヴェルトを目指して一回行ってみよう。元に戻されるってわかってるけどその現象を再確認するってことで!」
「魔女、お前だけ戻って来なくていいぞ。そのまま中に這入って死んでしまえよ」
「それはこちらのセリフだ。それに私は黒死病では死なない」
魔女だから何か態勢があるのかと思った。
「そう。そこなんだよね。結界が解除されてもどうやって中まで這入って行くのかって最大の問題が残るんだけど……。お姉さんは何かあるの?」
「私はおそらくなんとかなるだろう」
詳しくは話さなかった。サクラにだけなら話しても問題はないが、ここにはシェルがいる。
「司教様は?」
「私は鍛えていますので。それに神の力借りて結界を張ろうと思っています」
「鍛えてどうこうなる問題じゃないと思うが」
「黙れ」
「サクラはどうするつもりだったのだ?」
「私? 私もきっと大丈夫だと思うよ。なんの根拠もないけど」
切り札があるのは全員そうらしい。手の内は明かさないがそれぞれに自信を持っている。
「まぁサクラは私が守ってやるから大丈夫だ」
「お前なんかに任せられるか。お嬢さん、私が責任をもってお守りしますのでご安心ください」
にらみ合う二人をよそにサクラはなんとか三人で行くことがまとまったと心の中で首を縦にふった。敵対する二人が今後仲良くなどはならないだろうが、目的は同じだ。いつか今より多少打ち解けてくれればいいなと思う。
ずっと独りで旅をしてきたサクラにとっては、とても嬉しい事だった。誰かと一緒にいるなど、いつぶりだろうか。
その先に困難が待とうとも、心が躍る。
きっと三人ならなんとかなるような気がした。
かくして魔女と司教と魔女の子の奇妙な三人の旅はこうして始まったのだった。




