第六話
右手を前で出して握手を求める。サクラは迷わずその手を握り返した。その時にロゼの視線はサクラではなく、毛皮の方を見ていた。
「私、サクラっていいます!」
「そうかサクラか。そのサクラに聞きたいんだ。それで追いかけたんだが、こんな状況になってしまった」
敵意の視線がシェルに向けられる。
「魔女は害悪でしかない。火あぶりにしてやるよ」
「今は君のことはどうでもいい」
「んだと!」
ロゼはシェルから視線を外してサクラを見据える。
「それだ」
「え?」
ロゼは指をさす。その先にはサクラの自分の身体があるだけだ。
「その毛皮。どこで手に入れた?」
先ほどまでの優しい口調ではなかった。返答次第でどちらにでも転ぶ声色だ。
「これ? この毛皮?」
「そうだ。その毛皮だ。私はそれを知っている。なぜ君が持っている?」
「これは貰ったんだよ」
「貰った? 誰にだ」
横には司教がいる。魔女の自分と少女を天秤にかけてどちらを守るかと言われたら考えるまでもない。戦闘になったところで負ける気もなかった。しかし、毒気はすぐに抜かれることになる。
「おとうさん」
「おとうさん?」
ロゼはオウム返しのように聞き返した。
「これね、おとうさんに貰ったの。若い時に自分が着てたんだって。それで私が旅に出る前に持っていきなさいって。きっと力になってくれるからって」
ロゼは息をのむ。
なぜ気が付かなったのだろう。あれからかなりの時が経っているが言われて鮮明に思い出す。その容姿はそのままではないかと。
「君の……お父さんの名前は?」
知っている。きっと自分は知っている。
「リンドウ」




