第五話
一人は男で司教服を身に纏っている。もう一人は十五、六ほどの少女だった。
「俺が助けた!」
「違う。私が止めたのだ!」
二人は視線をかち合わせながら喧嘩をしている。
「だいたい君はどこの誰だ?」
「はぁ? 見てわかんねぇのか、司教様に決まってんだろ」
「君のような見た目の悪い司教がいてたまるか」
「んだとこのクソ女ぁ」
「あの~、二人ともだれ?」
きっと助けてくれたのだろうが、いきなりこんな状況で喧嘩を始める二人の顔に見覚えはなかった。こちらの質問には聞く耳を持たず、ずっと口喧嘩をしている。もちろん猪も置き去りにしてだ。
しかし、こんな状況がいつまでも続くはずがない。猪がグッと足に力を入れた瞬間だった。喧嘩していた二人は瞬時にそれを感じとる。
「うるせぇ!」
「うるさい!」
巨漢は宙を舞って森へと帰還する。大砲のような着地音と振動が辺りに伝わってサクラは少し気の毒に思った。
「ふん」
と仲が悪そうなのに息を合わせる二人。いったいどこの誰なのだろうか。
「あの~、二人ともだれ?」
同じセリフをもう一度言う。
「私は」
「俺は」
と言葉がかぶる。するとそれが当然であるようにお互いを睨みつける。このままではらちが明かないと思いサクラは男の方から自己紹介をお願いした。
「初めましてお嬢さん。私はたまたま通りかかった司教のシェルと申します。お怪我はありませんかお嬢さん」
そう言って右手を出してくる。
「なんだその喋り方は。気持ちが悪い」
「あぁ~? んだとコラ」
この差はいったい何なんだろうか。単に女好きかと思ったらそうでもないらしい。
「私は世の女性の味方ですよ」
白い歯を見せて満面の営業スマイルで笑うシェル。
「え? だってこっちお姉さんだって」
「こいつは論外です。出来ることなら今この場で殺しておきたいですね。よろしければ眼を瞑っておいていただきたい」
顔は笑っているが冗談ではなさそうな雰囲気だった。
「はっ、君ごときが私に勝てる訳がないだろうシェル司教殿」
「俺の名前を気安く呼ぶな。魔女の分際で」
サクラの時が一瞬止まった。
魔女? 今たしかに魔女と言った。
「魔女? お姉さん魔女なの?」
自分よりも少し年上に見える少女はにっこりと笑った。
「そうだ。私は魔女だ。名はロゼという以後お見知りおきを」




