表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
暁の社、笹の葉の栞。  作者: 雅乙
第一章
PR
4/4

第四話 確信

「お邪魔すっぞー」

「お前ら、よくもまぁ飽きずに来るよな」

「まあまあ、親友だろ? 固いこと言うなって」


 翌日、啓司と檀が僕の家に押しかけてきた。


「そういや茜は? 」

「誘ったんだが、買い物するとかで来れないって」

「がっかりした? 」

「んなわけ、コホッ……」


 咳き込んでしまった。


「風邪?」


 マスクをしていた僕に檀がたずねてきた。


「あぁ、なんか昨日もらってきたみたい」

「移さないでよ?」

「人ん家来てまで言うか? それ」


 檀がスッと僕から遠ざかったので、ジト目で見返した。


「で、一体何しにきた」

「そうそう、聞いて欲しい話があってだな。昨日の帰り鎌倉駅で別れたろ? あの後俺たち二人で六国見を登ったんだが」

「夜のハイキングデートとは、またマニアックな」

「真面目な話をしてるんだけど」


 檀に睨まれる。


「冗談だ」

「その山頂でだな、檀と話してたんだよ。お前にもしたろ? 何か忘れてるってやつ」

「それで鼎、昨日私に変なこと聞いてきたじゃない? 」

「上野瑞樹のことか? 」

「そう。それでね、その子の話をし始めたら……」

「し始めたら?」

「……」


 檀の顔色が明らかに冷めていく。


「出たんだ……」

「出た? 何が」

「分からん。黒い影みたいなやつが、いきなり俺たちの前に現れたんだ」

「影?」

「ああ、不気味だったから檀を連れて逃げたんだが、そいつ、山を出るまで追っかけてきて、ありゃ一体なんだったんだ……」

「上野瑞樹って子に関係するなら、鼎に聞けば何かわかるかなって」

「……」

「……ヨル……?」

「なんだって?」

「ヨル……。そんな単語に覚えがあって。ちょっと待ってて」


 僕はカバンからクロッキー帳と筆箱を取り出し、筆を走らせた。


「もしかしてだけど、こんな感じの奴じゃなかったか?」


 二人は目を丸くして驚いた。


「そいつだ!」

「それだわ」


 二人が同時に叫ぶ。


「鼎、なんでお前こいつの事知ってんだよ! どこで見たんだ? 」

「どこというか、夢……と言いますか……」

「夢? 」

「なにそれ、ふざけてるんじゃないでしょうね」

「失敬な。最近夢見が悪いっつったろ? その夢の中で、何時もそいつに追いかけられて眼が覚めるんだよ」

「もしかして、上野瑞樹って子もその夢の中で? 」

「いや、その名前を知ったのはこの前啓司と会った時だ」

「はぁ? なんで教えてくれなかった! 」

「いや、俺も混乱してて……」

「あの基地でか? 」

「ああ」

「基地?」

「そうそう、小さい頃の通学路の途中の山ん中に作ったじゃん。あれまだキレイに残っててさ」

「ふうん……」

「どうかしたか? 」

「私も行ってみたいんだけど、いいかな? 」




「あなた一番デカいんだから先頭ね」

「そりゃねぇぜおい! うわ、蜘蛛の巣付いた」

「何故僕まで……」

「お、見えてきた」


 僕たちは三人で秘密基地に向かっていた。


「ほんと、まるで時が止まってるみたいね」

「にしちゃ汚れてねぇか? 」

「例えよ。本気にしないで」

「へいへい。で、鼎。上履きってどこにあったんだ? 」

「ああ、よくブランコ作って遊んでた木の下だよ。こっちだ」

「にしても、こんなに草ボーボーだったか?」

「誰も入らなければこんなものよ」

「俺たちだって草刈って作ったろここ」

「そういやそうだった」

「と、ここだ。えっと確かこの辺に……」


 僕は茂みを掻き分け上履きを探した。


「あった。……え…………?」

「どうした鼎? 」

「いや、それが……」

「なに、どうしたの? 」

「ないんだ。名前が……」


 確かに踵部分に書いてあった名前が、なにもなかったかのように消えている。


 そして僕は二人に上履きを見せた。


「ほんとや。なにも書いてないな」

「……」

「檀? 」

「…………」

「檀、どうした? 」

「へ? 」

「おい調子でも悪いのか? 」

「い、いいえ。何でもないわ」

「ほんとに大丈夫かよ。顔色悪いぞ」

「ほんと、大丈夫だから。で、ここに上野瑞樹って書いてあったのよね?」

「ああ、平仮名で」

「他にも上野瑞樹って子の手掛かりがないか探して……!」

「か、鼎……、あれ…………!!」


 檀が突然真っ青になり指をさした。

 その方向。ブランコの木の影から。そいつはこっちを見ていた。


「ヨル!?」

「ちくしょっ、こんな時に!」

「逃げるぞ! 」

「走れ! 」


 僕たちは走り出した。

 藪を掻き分け、ただひたすらに影との距離を取るべく必至に足を動かす。

 もう少しで山を出るという時、檀が躓き転んだ。


「檀! 」


 影は檀の前で立ち止まって、胴から細い手を伸ばすと、檀に触れた。


「このやろっ! 離れやがれってんだ! 」


 啓司が迷わず影に向けて飛び蹴りを放った。

 する影は呆気なく檀から離れ、次は僕らに目を向けた。


「行くぞ! 」


 啓司の掛け声とともに僕らはまた走り出した。


 


 山から出た時、影はもういなかった。


「間違いねぇ、上野瑞樹。この名前に反応して出てきやがった」

「ああ、まさか現実でまで追いかけられるとは思わなかった。てかほんとに現実か? 夢じゃないよな」

「檀、お前なんか触られてたけど大丈夫か?」

「ええ、どこも悪くないみたいたわ」

「そうか、よかった」

「ところで私たち、なんでこんなところ来ようと思ったんだっけ? 」

「なんでって、お前が来たいって言ったんだろうが」

「え、そうだったかしら……」

「あぁ、上野瑞樹ってこの事調べてたんだろ? 」

「上野瑞樹? 」

「そうだよ」

「ちょっと待って……」

「なんだよ」

「私が行きたいって言ったとか、上野瑞樹とかって、一体どういうこと? 」

 



 僕らは檀を家まで送り届け、公園に来た。


「確定だな」

「何が」

「五人目がいたって事だよ」

「啓司、今はそれどころじゃない。檀の記憶がおかしくなってんだぞ」

「それだってその五人目が原因だろ? あの影だって……」

「とにかく、檀の記憶を取り戻すのが先決だ」

「どうやって? 」

「…………」

「この件、檀はこのままの方がいいんじゃないか? 正直普通じゃない。危ない匂いがする」

「ああ……」


 僕と啓司は頷き合う。


「この事、茜にも黙っておこう」

「僕もそれには賛成。檀のこと心配して突っ走りそうだからな」

「それと、彼女の名前を出すのも控えよう」

「そうだな。もう二度とあんなのに出くわしたくはない」

「それなんだが、やっぱりあんなのが山の中にいるんなら他にも誰か見かけててもいいと思うんだ。この辺のことに詳しい人探して、聞いてみんのはどうかな? 」


 啓司が影についての話題に変える。


「確かにそれはありだと思う。けど誰に聞くよ? 」

「お前ん家の爺ちゃんは? 」

「ん~……。ボケてるからな、力になってくれるかどうか……」

「言い方考えろよ……」

「そういえば、白山ところの神主さんのお孫さん、後輩にいなかったか? 」

「そういやいたな」

「その子に頼んで神主さんから何か聞いてもらうとか? 」

「確かに、あの人なら何か知ってそうだな。地元愛深いって聞くし」

「お前連絡先持ってるか? 」

「知るわけないだろ」

「使えねぇな」

「使えねぇってな……。それこそ、檀なら知ってんだろ。ハンドメ部の後輩だったろ」

「それだ! 」


 啓司が僕に両手の人差し指を指す。


「それだじゃねぇよ」

「そうと決まりゃ善は急げだ! 」

「どうすんだよ」

「檀に聞きに行く」

「檀はこと件から遠ざけるんじゃなかったのか? 」

「背に腹はかえられん」

「お前ってやつは……」

「それじゃ鼎、来週の月曜とか空いてるか? 」

「月曜は……。無理だな。用事がある」

「毎日暇なんじゃなかったのかよ」

「色々あるんだよ、色々」

「茜とデートか? 」

「なっ! 何故知ってる!」

「いや、俺が茜のこと唆したんだし。感謝されても恨まれる筋合いはないぞ」

「くっ……! 」


 コイツめ。アホヅラの癖に策士やな。


「まあ、怒んなって。茜のこと泣かせんなよ? 」

「お前に言われなくたってわかってるよ」

「ならいい。向こうの都合もあるだろうし、アポ取れ次第連絡するわ」

「ああ、任せた」

「任された!」


 そして僕たちは、夢ともつかぬ現実に片足を踏み入れたのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ