眼鏡と完結
完結です
眼鏡をかけなくなってから5年が経ち、俺は大学3年生になっていた。某私立大の法学部に受かり、法について学んでいる。
ある日授業で判例について考えるというものがあった。
「えー。5年前の事件だけど覚えてる人もいるかな。当時君らと同い年ぐらいの少女が親を殺したって事件だ。」
「なぁアスマ。この事件覚えてるか?」
小さな声で話しかけてきたこいつは大学の同期のマサシだ。
「…うん。とってもよく覚えてるよ」
「さすがアスマだな。5年前なんて記憶がないわー」
「忘れる分けないよ…。この事件のせいでここにいるんだから」
そんな俺たちの会話をよそに教授は講義を続ける。
「この事件で少女は5年の刑がくだされた訳だがこれが長いか短いか考えて貰いたい。事件については各自調べてレポートにまとめて提出してくれ」
そういうと鐘がなり講義は終わった。
「皆川の野郎またレポート出しやがったな」
マサシは頭をかきながらふんぞり返る。
「聞かれるぞ、ただでさえいつもギリギリなんだから」
「なぁアスマこの事件で知ってるんだろ?手伝ってくれよぉー」
「いいけど途中で放棄したりなんもしなかったらお前のレポート破り捨てるからな」
「しーねーよ。単位危ないしなー」
「よし。決まりだ。今日はもう講義ないし今から行くぞ」
「図書室か?」
「現場だよ」
荷物をもってそういうとマサシは目をパチパチとしていた。
「5年ぶりか…」
5年ぶりに行った場所は前とは全く違く人がいる様子が全くなかった
「なあ…アスマ不気味じゃねここ。」
「そんなことないよ。現場百回っていうだろ?まずは現場見ないとな」
「そうだけど…来たって誰もいないんじゃ意味なくね?」
マサシはキョロキョロしながらそんなことを言っている。
「いや今日は来るはずなんだ」
「誰が?」
「少女だよ。ま、もう少女じゃないけどな」
「は?」
「いいから見てろよ」
一時間ほどたっただろうか、事件のあった家に向けて帽子を被った女の人が歩いているのが見える。
「来たな」
「あれが殺人犯?」
「さぁどうだろうな。聞いてみればいいだろ?」
マサシにそう告げ女の人のところまで走った。マサシが何か言っているが知らない。
「出所おめでとう。カエデさん」
帽子を深くかぶる女の人近くまで走って近寄り、驚いている隙に顔を覗きこみそういった。
「わっ…何ですかあなた。」
「カエデさんじゃないですよね?」
「…カエデですけど」
視線を下に向けたままそういう。
「そうじゃなくて、カエデさんじゃないですよね?お父さん殺したの。」
「っ…」
言葉を詰まらせる。どうやら図星なそうだ。
「どうして庇うんですか?俺ずっとこの事件について調べていました。あなたを助けたいんです。救いたいんです。力にならせてください。」
「誰もあのとき助けてくれなかったのに今さらなんなんですか…もう遅いんですよ」
「遅いですよね…。すいません。あの頃の俺は力がなくてなにもできなかった…」
「…あなたなんなんですか!もう終わったことなんですよ…!」
明らかに動揺して大声を出し、その場に膝から崩れ落ちてしまった。
「…マサシ、この子つれて近くのファミレスにでもいっててくれないか?」
「え?は?」
どうやらあまりの展開についてこれていないようだ。
「カエデさん。待ってていただけますか?」
「…」
「頼んだぞマサシ」
「アスマ、お前ヤバイな…」
「ああ、ヤバイだろ。これからもっとヤバイぞ。けどちゃんと最後まで付き合えよ?すぐ戻ってくるから」
「あ…ああ」
マサシにカエデさんをお願いして俺は実家に向かった。この5年間集めた資料と眼鏡を取るためだ。
「アスマ帰ってくるなら早く言いなさいよ!」
お母さんが大声で怒鳴ってくる
「ああ、悪い。でも忘れ物取りに来ただけだからもう家でるよ」
「ご飯ぐらい食べていったらいいんじゃないの?」
「課題が終わらないから」
「そう…」
ご飯も食べたかったがそれどころではない。
あれからずっと考えていたのだ。眼鏡の数字について、事件について。何でこの眼鏡が自分の元にやって来たのか。
答えは何となく出ていた。あの子を助けるためだ。しかしあの日の俺はなにもできないばかりか、諦めてしまったのだ。
不甲斐なかった自分を思いだし呼吸が苦しくなる。
悲しそうな顔をした彼女を思いだし心臓が痛くなる。
「今度こそ、今度こそ救ってやる。」
自分にそう言い聞かすように声に出す。
ポイント眼鏡を握りしめ俺は彼女に元へ走った。
え?って思ったかも知れませんが完結です。カエデさんを救えたのか、事件の真実はどうだったかについては皆様のご想像にお任せします。(番外編は書くかもしれません)