ある晴れた夕方のお庭のお話
すやすや。
あめちゃん。クッキーちゃん。ケーキちゃん。
むげんに食べられるよこれ。
「……ェル様ー」
のみもの何がいいかな。お茶ってじつはどれも味かわらないよね。
ああ、でもロバートが淹れてくれたなら、むげんにのめるよわたし。
「……ミシェルお嬢様ー」
おお。お菓子からロバートでてきたよ。これはあれだね。夢だね。
しってる?ロバート。夢って気づくと思いのままにうごかせちゃうんだよ。
たとえば……。
よし、ロバートぶんしんだ。
ぬぬぬぬ。
ほらロバートふたりになった。
ああ。なんてしあわせなんだろう。
「ミシェルお嬢様、しつれいします!」
ああ! 揺れてるぅ!
ふたりになったロバートがくねくねと身体をくねらせながら近寄ってくるぅ!
「……あ、ああーロバートそれ以上いけませんわー」
「うわわ!」
わたしは目を覚ますと、両手を突き出した体制になっていることに気付いた。
「あれ? わたしいつの間にか寝てたのね。すごい夢だったわ」
「お、お嬢様。おはようございます……?」
ちょっと離れたところでロバートが尻もちをついていた。
その時わたしの思考は高速回転する!
突き出た両手。尻もちをついているロバート。
この状況から導き出されるこたえは……。
「あ、ご、ごめんなさいロ、ロ、ロバー」
はあああうまくしゃべれない。心臓どきどきするよロバート!
あなたっていつもそうやってわたしを困らせるんだからロバート!
「いえ、俺の方こそ乱暴なやり方ですみません!」
「ら、らんぼう……」
よく考えてわたし。もっとあたまを高速回転させて。
そうよ。わたしがロバートを突き飛ばしたということは、ロバートはかなりのショートレンジにいたことになるわ。
そんなに近くにいて、完全むぼうびなわたしを目と鼻のさきにして、いったい何をしようとしていたのかしら!ららら!!
ああわたしったら何でこんな時に寝ていたの!
どうしよう。
もういっかい?
「すやぁ……」
「ちょ、お嬢様! 寝ないでください。もう日が暮れちゃいますよ」
わたしは大人しく身体を起こして遠くの空をみた。
昼間とは少し違う、ひんやりとした風が熱くなった頭を冷やしていく。
「真っ赤な空。またお姉ちゃんたちに置いていかれたのね……」
いっつもそうだ。わたしがにぶいとか言ってお姉ちゃんたちだけで楽しい話はじめちゃうんだもん。
いまごろどこかで笑ってたりして。はあ。
「起こすのがかわいそうだから時間まで俺に任せると言ってたので、ミシェルお嬢様を想ってのことだと思いますよ」
そ、そうなのかな? わたしは慣れっこだから実際あんまりきにしてないんだけど。
でもロバートやさしいからなぁ~。
そうだ、とりあえずお礼だ。お礼いわないと。
「あ、ありがと……」
よし、いえた! 一歩前進!
「はい。あはは」
ああ。ロバート。
はにかむような笑顔が夕日でそまって……。
それでも、貴族のわたしと庭師のあなたとではここまでなのかしら。
あなたはいつまでこうして側にいてくれるの。
わたしはいつまでここにいられるの。
「ではお嬢様。ごきげんよう」
「ごきげんよう……」
お屋敷に戻る時間。
毎日、この瞬間は胸がはりさけそう。
いつか、この気持ちのまま終わりがきてしまうというならわたしは……。