第1章第2話 進まない旅路
5話くらいまではテンポよく投稿したいと思います。
帝都 東京
「最終戦争論だっけ?世界最終戦論だっけ…」
大日本帝国が東亜の盟主となって80年近く。先の大戦と呼ぶべき戦争は過去の物となり…
…という事は無く、未だにリニアは走らないし車も空を飛ばない。
お隣の国とは微妙な関係だし、メタンで資源国にもなっていない日本の東京。
そんな首都東京の数あるシンボルの1つ、レンガ作りの東京駅舎の前に鷹羽はいた。
「先の大戦は過去だよ!」
スパン!頭を叩かれる。
「なに独り言言ってんのよ!」
振り返れば奴がいる。はトレンディだった。
そんな事はともかく、独り言くらいで頭を叩かれるのが、ブラック企業です。
何の躊躇もなく人の頭を叩ける、立派な道徳心をお持ちの人物は我が社では一人しかいない。
社長の大池 雪その人だ。
先代社長が早めに一線を退き、2代目に就任した女社長。40代 既婚、子持ち。
その人柄を一言で表現するならヤのつく反社会勢力そのものだ。
電話越しに罵声を浴びせられ、萎縮するクライアントは数知れず・・・
趣味は請求書を封筒に入れる瞬間で、会社の通帳の残高で機嫌が上下するという厄介な性癖の持ち主。
おまけに出身は某『虹の掛からない街』というから、生粋の歩く暴力装置と言い換えても過言ではない。
そんな彼女も家では旦那を粗大ゴミのように扱い、一人息子を宝のように育てる立派なママである。立派なママである。
スパン!再び頭を叩かれる。
「なんか心の中でディスられた気がする。」
「何でもないです!はい!まだ全員揃いません!」
「皆しゃん、お揃いですかぁ〜?」
そう少し舌ったらずで甘めの声で声をかけて来るのは、あーりんこと鈴木 亜里沙
夜中に高熱でダウンした上司の代わりに、こんなブラック企業と1週間も北国へ旅をするハメになった哀れな新人ちゃん。
もともとアシスタントとして同行予定だったらしいが、一人で仕切るのは新人には荷が重いだろう。
ここは腐ってもイベント会社のプロデューサーとしては、いつもの仕事の延長のようなものだ。最低限は自分たちでやってあーりんのサポートをせねばと心に誓う。
そう、そこに若い女の子の好感度が上がる可能性があるのなら・・・
「鷹羽さん、なんか朝からいやらしい顔してますぅ・・・」
「亜里沙ちゃ〜ん、あの人危ないから近づいたらダメよ〜」
「余計なこと言うな!カンナ!」
一言余計なこの女は、大谷 カンナ。アラサーの多分未婚。
私生活を離さないので謎が多い女だ。
噂では特殊な性癖の紳士が集うバーで腕を振るっていたとか鞭を振るっていたとか・・・
つくづくサディスティックでファンタスティックな会社である。
そんな噂の信ぴょう性を高めているのが、その独特のファッション。
レザーやらラバーやらエナメルやら、生地からして着心地が悪そうな服を、ピチピチで着ているもんだから、身体のラインが強調される。そう、ケシカラン身体をしている。
「グッモーニン!皆の衆。」
「カイチョー、遅いっすよ!新幹線は重役出勤できないっすよ〜」
不思議なカタカナ英語と日本語のマリアージュは、我が社の会長。小滝 雅
日焼けした肌とポロシャツを破きそうな筋肉。その上に浮き輪のような脂肪を蓄えた立派な身体。
学生時代はアメフト選手だったそうだが、半世紀近く立っているはずなのに筋肉が衰えないのは、
我が社の七不思議の一つ。残りはいずれ語ろう・・・
「よし!あーりん、これで全員揃った!いざゆかん、北の大地へ!」
「はぁい!じゃあ皆さん、出発しますよぉ〜」
総勢8名のピクシス社員と一人の旅の始まりである。
まだ異世界へはいけません・・・