何にせよ初めてというものは緊張してしまうものです
隣の悪魔が勝手に妻を名乗りだしたのだがどうすれば良いのだろうか……
「おとーさん。おかーさんといっしょにがんばろうね」
ジロウが無垢な笑顔で、俺にそう言ってくれる。
ジロウがお母さんと認めるなら俺の事情など、どうでも良いので仕方がない。
俺がここに来れた原因でもあったし我慢するとしよう。
「そうだな。みんなで頑張ってこの危機を乗り越えような」
そう言うと俺の子供達が、わいわいと集まって来る。
この幸せを守るため俺に出来る事は何だってしていくとしよう。
「カナハ。聞きたいことがあるんだが、お前はどの程度の戦力として期待していいんだ? 回復魔法を使えるのは先程の怪我の治療で分かっているが、その他の能力を出来れば知りたいんだが」
子供達を戦場に出したくないので出来ればあてにしたいのだが、カナハ体をクネクネさせながら顔を赤らめて答えてくる……こいつ一体どうしたんだ?
「そんな……私は貴方の妻なんだから協力するのは当然よ? そうね、私の能力だけど、身体的には残念だけど普通の人間と変わらないわ。ただ、魔法に関しては防御系、治療系、補助系をかなりのレベルで使うことが出来るわ…ただし、攻撃に関する魔法は一切使えないの。私のユニークスキル【願璽】は攻撃に関するスキルや魔法を使えない代わりに、その他のスキルや魔法の効果を3倍にしてくれるスキルなの。サポートならお任せって感じね」
願璽……まさか地球のあの人の名前…いや、やめておこう。
そんなことを考えても不毛だ。
それにしてもかなり癖のあるスキルだな。
攻撃がどの程度までは含まれるか分からないから不安だか、後衛としての能力は高そうだ。
「分かった、後衛として当てにさせてもらおう。タロウと2人で俺をサポートしてくれ。どんな敵か分からないから基本だけ決めておこう。前衛は俺1人、苦情は受け付けない。後衛はタロウとカナハ。タロウは敵に隙が出来たら飛び道具で攻撃してくれ。カナハは俺に防御と回復を切らさないように掛けておいてくれ。万が一、敵がそちらに漏れたら防御魔法で防いで時間を稼ぐんだ。出来るな?」
カナハとタロウは頷く。
しかし、俺の会話に名前の出る事がなかったジロウとフタバから異論が出てくる。
「おとーさん。ぼくもたたかうよー」
「とーちゃん。なかまはずれはだめだぞー」
拳をぎゅーと胸元で握るジロウや、腰に手を当ててプンスカなフタバを見ると心が挫けそうだが、頑張って耐える。
「駄目だ、お前達にはコジロウを守るという大切な任務があるんだ。だからここに残ってみんなを待つのがお前達の仕事だ」
俺がそう言うと2人とも悔しそうに涙目でこっちを見てくる……やめてくれ、俺はそういう視線には弱いんだ。
精神的ダメージが大きいが、俺の精神は999だ。
「おとうさま。おとうさまになにかあれば、わたしたちはいきていられません。それがけんぞくというものです。せめておかあさまといっしょにこうどうさせてください」
何とか2人を納得させたと思っていたら、今度はオイチが冷静に反論してくる。
オイチの発言は的確なようで、カナハもアヤハの言葉に頷いている。
こんな風に論破されるのが嫌で話を早く纏めたかったんだが……
ジロウとフタバもオイチの提案を聞いて、期待した目でこちらを見てる。
仕方がないか……それにしても、オイチは本当に頭が良く回るようだ。
そして、あの決意を秘めた瞳……
あの子は俺に何かあれば、俺の命令など簡単に無視して自分を犠牲にする、そんな危うい感じがする子だ。
俺はそんな危うい感じのするオイチがとても不安になり、そばにいって頭を撫でる。
こんな健気な子に無理をさせない為にも、俺が何とかしていかないとな……
「あ、あぅ…おとうさま、はずかしいのですが…」
オイチが初めて頬を真っ赤に染めて、俺に文句を言ってくるが、逆にそれが愛おしく感じて可愛いからやめられない。
そんな折、頭の中に例の警告音が響き渡る。
『敵対生物との距離が100mを切りました。ゾーンマスターが消滅しますとこの領域は相手に移譲されます。気をつけてください』
「敵対生物との距離が100mを切ったらしい。カナハ、魔法で探れるか?」
カナハに尋ねると首を横に振られる。
「出来るけど、それをすると、こちらの場所までバレるわよ? それでもいいならするけれど」
レーダーみたいなもんで、魔力を飛ばすから相手にも分かってしまうのか?
「それなら無しで。俺がまず1人でここを出る。俺には魔力が無いから気づかれにくい筈だ。扉を開けておくから俺の合図が聞こえたら、みんなで出て来てフォローに回ってくれ。いいな? 」
そう話すと、みんなが決意を秘めた表情で頷いてくる……本当にいい子達だな。
よし、これから防衛線の始まりだ!
地球から持ち込んだ所持品を再確認してみる。
スマホに手動での充電器、手鏡にエチケット用のタブレット。
使えるのはハンカチとライターぐらいまでかな。
財布と免許証は使い用がないな……
確認をし終わったので、地下室から階段をに上がっていく。
物置ののような部屋だったらしく、この部屋には窓が2つしか無い。
窓の下まで這って行き、携帯用の鏡を窓に向けて外の様子を伺ってみる。
辺りに動くものは確認出来ないな……
窓を開ける為、ゆっくりと立ち上がってもう一度周りを確認する。
どうやら今の所は問題なしっと……
窓をゆっくり開けて外に出る。
周りの音で異音がないか確かめるが、特に変わった音は聞こえない。
壁を背にして角まで足音を立てないよう注意しながら動く。
角にまでくるともう一度携帯用の鏡を使い辺りを確認……いた! 玄関辺りになるのか、扉の前に2mをはるかに超える人型の『何か』がいる。
しかも扉を壊そうとしているようだ。
こちらを向いていないようなので、そっと顔を出して覗いてみる。
何なんだ ⁈ あの筋肉の塊は……取り敢えず人型なので予想はしやすいが、知能のに関しては分からなかったので気が抜けない……扉を壊そうとするぐらいだからあまり頭が良さそうには思えないけどな。
携帯を取り出してアラームをセット、最大音量で3分後。
これを先程の窓の下に置き反対側に回る玄関が壊れる音がする中で、反対側に回った俺はその時を待つ。
「ピッ!ピピピピピピピピピピピ」
予想よりもかなりの大きな音が響き渡る。
巨人もそれに気づいたらしく、そちらの方を訝しげに見ているようだ。
早くそちらに行ってくれと願いながら、その場で巨人の様子を見守っていく。
ここからの俺の行動によってみんなの未来が変わると分かっているだけに、俺の心臓は鼓動を早め、押しつぶすかのようなプレッシャーが掛かってくるのを、今の俺はただ黙って耐えるしかでないのであった……
次回も2日後となります。