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ワールドクラッシュ  作者: @ki
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自己紹介ー前編

 「コード認証:A-12」

 「コード認証:M-06」

 二人の声が同時に発せられ、重厚な扉がかすかな駆動音と共に左右に開く。内部は外見から想像もできない程に汚く、様々なガラクタによって埋め尽くされていた。どれも物騒な形状をしており、こんなものが無ければ安全に生きられない世界なのだということを伝えてくる。

 【おかえりなさいませ。リーダーがお待ちです。】

 どことなく機械的な、しかし儚い女性の声を彷彿とさせる声が響いた。

 彼女は俺のツレが開発した人工知能であり、主に通信・連絡役をさせているらしい。スペックが国の保有する人工知能よりも2,3世代上を行くと豪語していたのでよく覚えている。なぜこんなにも優秀なのかと訊ねたら、笑顔で「本当に知りたいの?」と言われてしまったので、それ以来何も聞いていない。聞きたくもない。

 「わかってる。高速通信ゲートを開いて。【枝】対策もヨロシク」

 素っ気ないなぁ…顔だけは整ってるんだからもっと愛kっ。

 突如右肩に鈍痛を感じ、何事か把握するのに3秒ほど掛かりようやく理解する。というか向けられている視線が全てを物語っていた。

 そんなやりとりをしている間に、意識が何かと接続する感覚を覚える。

 【ゲート安定。通信速度良好。この回線であれば10分間は安全と思われますが、それでも油断はしないでください。それでは。】

 目を開けると、視界には先程居た所とは違う空間が広がっていた。そして7つ用意された椅子の最奥に1人が深く腰を掛けている。

 「よく来てくれたね。待っていたよ」

 とても爽やかな声が鼓膜を震わせた。しかし、その声には少しの緊張が含まれているように感じられる。見抜かれたと気づいたらしく彼―――この研究塔のリーダーは苦笑いを浮かべた。

 「結論から言うとね、最悪の状況だよ。まずは———」

 リーダーの言葉が途中で切れる。何事かと警戒していると、自分の後ろに新たな人影があった。高速通信ゲートの内部空間とはいえ、まったく気配が感じられなかった。

 それは隣の彼女も同じだった様で、小さな頬をぷっくりと膨らませている。

 「あ、話し中やった? ごめんなぁ。 続けて続けて」

 独特な話し方をする彼女はどことなく愉快そうに笑っていた。隣で「後で確実に息の根を…」と聞こえた気がしたが、きっとたぶんおそらく空耳であるはずなので、聞かなかったことにしておく。

 「お久しぶりですトレーナー。 ところで隣の方は見ない顔ですが、どちら様ですか?」

 トレーナーという役職名で呼ばれた女性の後ろに隠れるようにして、小さな女の子が顔をのぞかせていた。まだ12歳位だろうか、どこか幼げな少女は注目されたことで、そのその小さな背丈がさらに小さくなったように感じた。

 「その子については僕から話そう。 先月にキューブの解析任務を遂行中に死亡したローレンの代わりさ。 穴を埋め要員として今日から配属になったんだ。 ヨロシクねランタン君」

 ニコニコと微笑みかけるが、ランタンと呼ばれた少女はサッと顔を隠してしまった。

 「おやおや、ホルミ君には随分と懐いているんだね。 リーダーなのに……トレーナーの君に負けるとは…」

 本当に残念そうにリーダーは肩を落とした。そして、彼はランタンを自分に懐かせる策を考え始める。

 「おやおや、それはアカンでバーク。 それだけはアカン。 この子はウチのもんや」

 二人の間で空間が軋み、空間にノイズが走る。床や天井、壁が無数のデジタルコードに変換され消失していく。更には俺の体までがコードに置き換わりつつある。これはマズい。やめさせねばと口を開きかけた一瞬先に、隣に立っていたはずの彼女が消えていた。

 ホルミとバークが互いに牽制しあっている空間の真ん中に突如、彼女が現れた。

 「お二人共、そろそろその辺でお遊びをやめて頂けますか? ゲートが崩壊して意識が世界から切り離されてしまいます。 5感を封じられた状態で精神がどのくらい持つか興味はありますが…」

 刹那、彼女の両腕が認識できない速度で閃き、リーダーの男とトレーナーの女を消失しかけの壁にめり込ませた。彼と彼女の体がデジタルコードにみるみる置き換わり、各々悲鳴を上げる。

 リーダーもトレーナーも躱そうと思えば躱せたのに何で投げられたんだろう、という俺の疑問は即座に解消する。

 「あー、コレやコレ。ホンマ癖になるなぁ。嬢ちゃんに投げられんの」

 「本当に。茶番した甲斐はあったようだな」

 ゲートの内部でも痛覚はあるのだが、何事も無かったかのように2人は起き上がる。その様子を見て彼女の拳がミシィと音を立てる。こいつを怒らせるのはやめよう。本当にやめよう。と、俺は心のメモに書き込んでおく。だって死にたくないもん。

 ため息を吐き、意識を無理やりに切り替えて彼女はランタンに向き直る。先程のやり取りが初めから無かったと言わんばかりの淑やかな笑顔を作り「これからヨロシクね♪」と挨拶をしたことで、その小さな少女はまるで眠るように意識を手放した。


 ———3分後。

 「回線はもって後5分くらいだ。 手短にいこう」

 事態はやっと収拾したが、本来の進行役であるバークがトリップしていたので代わり俺が話を進める。

 「まずは新顔のランタンがいるから、俺たちの自己紹介とこの世界の現状をざっと説明する。 ここに来てない残りの2人についてはおいおい説明するとして… あ、あとお前の自己紹介もしてくれな、ランタン。」

 ここでなぜかトリップしていたバークの意識が戻ってきたがあえて無視をする。正気になった男を横目で睨みつけながらホルミが言葉を発する。

 「ランタンの事については、半分アタシからも説明させてもらうで。 ええよな?」

 ランタンの顔がパっと明るくなる。本当に懐いているのだろう。でも何で一人称が「ウチ」から「アタシ」に変わったんだろうか。確か以前バークがホルミはエセカンサイベンなる言語を使うといっていたが… 聞かないほうがいいだろうと結論付け、残り少なくなった時間で説明しきるように俺は気合を入れ口を開いた。

 「まず俺の自己紹介からな。 俺の名前は———」

次回、研究塔員の自己紹介大会が始まります。

また、この世界について少し詳しく書きます。

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