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ワールドクラッシュ  作者: @ki
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壊れた世界

彼は天才だった。しかし、誰にも理解されることなく、また称賛されることもなかった。そして彼はこの世界に失望した。いや、正しくは無関心になったのだろう。自分が価値を見出したのものに誰一人として反応・共感しない世界に。———だから彼は世界を壊した。それだけの理由で、何もかも。

 どんよりとした雲が空一面を覆っているせいか、心なしかいつもより気分が沈むなぁ・・・などと考えながら一人歩いていると、いつの間にか隣を歩いていた少女が、この鉛の様に重い空気を全く感じさせない凛とした声で話しかけてきた。

 「おはよ。いつも暗いねぇ」

 第一声がこれである。もう慣れてしまったが、彼女の嫌味たっぷりな挨拶を受けて俺は即座に言い返した。

 「ああ、おはよう。俺が暗いんじゃなくて世界が明るいだけだっての」

 彼女は目を丸くする。そしてさっきとはまた違う、それでも聞いていて気品さを感じさせる笑い声が耳に入る。普段は明るい性格の彼女もめったに笑うことはないのだ。こんな世界では。

 「あはははは。久っさしぶりに笑ったよ。まったく笑えないのにね」

 ———そう。まったく笑えない。今から10年前に起きたあの史上最悪の大災害のせいで。そしてそれがもたらした影響のせいで。そんなことを心の中で考えていると、それをまるで世界が見透かしたかの様に空間が歪んだ。次いで顕れたモノは、漆黒。

 「警戒して。奴等が出てきたわ」

 近くの崩れかけた廃墟の正面入り口に、突如1辺5センチの正方形をした黒い「キューブ」が空中に出現した。それは、風が吹いても動かない。雨が降っても濡れない。時が経っても風化しない。その色は漆黒に染まり、ただそこに存在し、生きているものに生理的な嫌悪感を与える。

 こんなモノが世界各地に現れた始めたのは確か10年前程だったか、などと過去の曖昧な記憶を懸命に辿っていたが、しかしその行為は無駄に終わる。その原因は言うまでもなく隣を歩く少女。

 「いつまで黙ってるのよ。 友達がいないからしゃべり方まで忘たわけ? あ、それともこの私と会話するのに緊張してたり?」

 からかい8割:謎の自信2割という成分を含んでいるであろう声に対して俺はどう反応したらよいかと考えていると、彼女が奴「等」と表現した黒いキューブの中央に亀裂が入り、左右に二分した。そう、「分裂」したのだ。彼女の眼から光が消える。

 存在という概念そのものを否定するかの様な漆黒のそれは、まるで生者を喰らわんとするかのように増殖していき、さっきまでの彼女とのどこか温かい空気は瞬時にで消滅した。この光景はいつ見ても全身が芯から冷え、呼吸さえ乱れてしまう。隣の少女を見ても自分と同じ様に、その華奢な体は小刻みに震えていた。しかし彼女が抱いている感情は俺のものとは違った。それは怒り。———家族を殺された怒り。

 普段のキューブはこちらから手を出さない限りは特に危険は無い。しかし、分裂中には違う現象が世界を支配する。

 「何ボサっとしてんの! 早く離れなさい。瘴気を浴びる前にさっさと研究塔に行くわよ」

 さっきまでとは180度ベクトルが違う緊迫した声がその小さな口から発せられた。

 キューブを中心に漆黒の靄が瞬時に周囲に拡散した。まるで生命そのものを憎み、喰らい尽くさんとするかのように拡散していく。靄が近くの木々に触れた瞬間に俺は目を逸らした。この光景だけは何度目にしても慣れない。次に目を開けた時にはもう、そこに命は存在しなかった。

 ———ああ、この世界は死んでいる。

 俺は世界が歪む元凶となった大災害を引き起こしたあの男を絶対に許しはしないと、再度心に誓った。

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