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先古伝記クラマリオ  作者: 大川由宇
9/9

《魔導の勇者!?》~決着、落着!~

ついに最後の決戦、一騎打ち! 果たしてぬるま湯勇者に勝機はあるのか!? 

 デュデュが術を解いても、しばらく場の異常な雰囲気は変わらなかった。

「で、どうする?」

「…シューゲン」

「ふん、まあ、この場は傍観しておくことにしよう」

 腕を組んでシューゲンが言う。その傍らに、頭の垂れた巨大ウサギがたたずんでいる。

「お兄様…」

 落ち着いた兄を見て、シュールも安心したのだろう。

「なら、後はあいつが決着を付けるだけだ」

 ヒビノワムが、座り込んで足をさすっているタツヴォラを見ながら言った。

 ちなみにレインは、術にかけられる寸前のことを覚えているのだろう、戦意を失っているようだった。

「まあ、今回はあんたの勝ちということにしておくわ」

「当たり前だろ、すっタコが!」

 にやりと勝気に笑うリアラが剣を鞘に納めると、その笑顔は柔らかくなる。

「でも、次に戦ったら分かりませんね…?」

「ふん、もうあんたみたいなわけのわかんないやつとはやりたくないね、私は」

「ふふ、ごめんなさい」

 お互いに傷だらけのリアラとレインは、地面に手を付いて笑い合っていた。

 だんだんと回復している盗賊たちも、状況が少し変わっていることに気付いていた。騎士同士が戦うのを止めているのだ。それどころか、変な杖を持った老人と、でかい頭の垂れ下がったウサギが二本足で立っている。かなり恐ろしい光景だ。これら全てが敵になったのでは、と肝を冷やす盗賊も多かった。

「あ、あ~~!?」

 突然叫んだのは、幻覚から復帰したボボスだ。

「あ、あれは“紫電の魔導師”デュデュ・クロック!?」

 はわわわ、と手を口に突っ込んで驚いているボボス。

「わしを知っておるのか、盗賊の長よ?」

「あ、あんたとヒビノワムのせいで、俺の育った家は生い茂った緑に覆い尽くされたんだ!」

「……」

 ボボスの言葉に、デュデュはこめかみをぴくぴくと引きつらせたが、なんとかそれを堪えた。

「まあ、お前の相手はあくまでタツヴォラなのじゃろう、ヒビノワム? ワシは手は出さん」

「お願いしますよ、デュデュ様」

 パカッ!

「いたっ!?」

「誰に口を聞いておる、ヒビノワム!」

「そんなぁ、だって、いきなり魔法ぶちかましそうだったじゃ…」

 バキッ!

「あいたたっ!」

「やかましいわい! それより、ボボスというのか、お主! いいか、そこのタツヴォラ、小僧を叩き伏せれば、この盗賊団は今日のところは逃してやる、分かったかの!?」

「お、おうよ!」

 これ以上おいしい話はない。ボボスは反射的に返事し、タツヴォラに向き直る。

「というわけだ。恨むんなら、お前さんを犠牲にしたあの騎士どもを恨むんだなぁ!」

「え、え~?」

 というわけで、タツヴォラの入らなかった会話の中で、決闘は定められた。

「いくぜ!」

「ひえええ~!?」

 ボボスが斧を拾ってタツヴォラに襲い掛かる。やはりかわすばかりのタツヴォラ。

「どうした、どうした、いつまでも避けてられやしないぜ~!?」

「うっ!?」

 タツヴォラを倒せば助かる、という言葉が後押ししているのか、ボボスの動きは先ほどまでより格段によくなっていた。

 かわしきれない……!

 このままでは、いつか捉えられそうだった。

 しかし、どうする?

 そのときタツヴォラは、シューゲンが現れる前のボボスに当たった石のことを思い出した。

「石、石‼」

 叫ぶタツヴォラ。しかし、そう都合よくいくわけはない。

「い、石~~‼」


「何を叫んでおるのじゃ、タツヴォラは?」

「デュデュ様」

 タツヴォラの言動に疑問を持っていたデュデュに近付いてきたのは、ゼリエルだった。

「……何? 石がボボスの頭に落ちてきた?」

「はい。タツヴォラは、石とずっと叫んでいました」

「まさか、まさかと思うが、な…」

 デュデュの考え。

それは、タツヴォラがもしかしたら自分と同じかもしれないということだった。

つまり、魔道の力を持つ者。そう考えれば、先ほどの幻惑の術がかからなかったのも分かるし、初めて会ったときから感じていたタツヴォラに対する不思議な気分も説明が付く。あのときは、タツヴォラがただの異常な人間だからと納得してしまっていたのだが……。

「しかし、まさか、な…」

 魔道を操るものなど、ここ数十年この国では生まれていない。元々、激しい戦争時代に生まれる突然変異だと考えられているのだ。自分の力で魔道を探求したデュデュは、自らを異端だと考えていた。

 しかし、タツヴォラはそのどちらとも違う。

(時代が生んだ、新たなる勇者の器、とでもいうのかのう……?)

 頭を駆け回る嵐。さまざまな光景が映り、消え、再び映っては消えていく…。

それは、デュデュの生きてきた過去の記憶であった。記憶の中で、たくさんの勇者候補が現れ、そして消えていく。頭だけでない、電流のようにそれは全身を駆け巡った…。

「タツヴォラぁ!」

 デュデュが叫ぶ。その姿は、いつの間にかパープルの髪を稲妻のように浮き立たせた、皺のないデュデュの肉体全盛期に変化していた。肉体だけではなく、その服も、ボボスが言った“紫電の魔導師”そのままに、パープル系が目立つゆったりした服になっている。

「な、なにっ…、わっ!」

 タツヴォラは必死にボボスの攻撃をかわしている。が、デュデュが叫ぶとほぼ同時に腕を浅く斬られた。

「思い出せ、火だ!」

「へ、火…?」

 縦に振り下ろされる斧。真っ二つになるコース、それを横に転がって避ける。が、起き上がる前に追撃の刃。

「火って、なんなのさ!?」

 それも、避ける。なんとか転がって起き上がる。

「火の赤さを思い出せ! その熱さを思い出せぇ! 火傷の一つや二つ、した覚えはあろうが‼」

 タツヴォラは、疑問に思いながらも火を思い出す。

 小さい頃、一度に何本も指を火傷した。

「火に興味を持って遊んだこともあるだろう!?」

 夜に火遊びをした。

「火はどんな形をしていた!?」

 風に揺れて変わる形。

「人間には、なくてはならないものだ!」

 料理を作る時に当たり前のように使った。

「火…‼」

 ブゥン!!

 ボボスの斧が空を裂くたび、豪快な音が耳に入ってくる。

 デュデュが、なおも何かを叫ぶ。

 ボボスの振られた斧が自分のほうに返ってくる。

 音が、消えた。

 デュデュの声は聞こえない。

 ボボスの振る斧の音も聞こえない。

 盗賊たちの野次も聞こえない。

 何も聞こえない。

 火。

 赤い、火。

 ボゥッ‼

「な、なんだってんだぁ!?」

 タツヴォラとボボスの中間で、ちょうど斧の刃の付け根部分に、小さな火が宿った!

「だぁっ‼」

 タツヴォラが剣を振る。斧と交差するようにボボスに迫るが、浅く肌を切り裂いただけで、ボボスは後ろに跳び退った。

「な、何をしやがった!?」

 小さかったといえど、目の前で突然火が現れれば驚くのも当然だ。もちろん、腕にその熱い温度も伝わってきた。

「で、でた…?」

 タツヴォラの中で、確信があった。あのときの石と同じだ。それだけを考えていた。あのときは石。今回は火。そして、現実に現れた。

 使える、とタツヴォラは拳を握り締めていた。


「援護、しないんですか?」

 リアラがヒビノワムたちの方に寄ってきて言った。タツヴォラがいる所まで距離がある。少なくとも、弓でもなければこの距離からでは援護できないだろう。

「ああ。これは試練なんだ、あいつにとって」

 ヒビノワムが目を逸らさずに答える。

「リアラも見ているといい。あいつが、本当に君が信じられる勇者かどうか」

 ゼリエルは、リアラのほうを見て言った。

「決着が付きそうだな…」

 デュデュが誰にともなしに呟いた。その目は、老人の姿のときのように細められた。

「タツヴォラさん…、頑張って‼」


「おい、ボウズ! 今のはなんだってんだ!?」

 ボボスが叫びながら、斧を今まで以上に激しく振り回していた。それは、動きが鋭くなったわけでもなく、素早くなったわけでもない。

 焦っているのだ、とタツヴォラには分かった。

 タツヴォラをどういう人間だと思っているのかは知らない。しかし、最初はヒビノワムや双子のプラダ兄弟の従者と思っていたくらいだ。認識を改めているとしても、やはり位の低さを抜け出すことはないだろう。

 となると、到底そんな人間が使えるなどとは信じられるわけがない。

 魔術、魔道。

 この国にとって未だ未知なものだった。使えるのは、滅多に表に出てこないデュデュだけ。実態を知るものなどこの国には数えるほどしかいないはずだ。

「なんだってんだよ‼」

 がっ、と地面に突き立つ斧。それを力一杯引き抜くボボスの顔は、しかし自分の疑いを捨てきれず、無意識に引きつっていた。

「さあ、ねぇ?」

 ブオンッ!

「わっ!?」

「ふん、ガキがなめやがって!てめえが何をしようと、こんなひょろひょろしたガキにはやられねぇってんだよ‼」

 頬が裂けた。だが、痛みは大してない。今は必死だ。余計な神経は勝手に絶たれる。集中している人間の体とは、そういうものだ。

(今度は…‼)

 火ではなく、炎。

 炎を思い浮かべる。

 大して火とは変わらない。ただそれが大きくなった感じ。

 全てを呑み込むイメージ。うねり、狂うことがしばしばある。

 何かを燃やせば燃やすほど大きくなっていく。

 炎、炎。

 一つ、気になっていることがあった。石の時もそうだったが、出た直後、頭がくらっ、としたのだ。火の時は特に顕著だった。視界が一瞬ぼやけ、世界が飛ぶ、いや、自分が世界から飛んでいくような錯覚を覚えた。

 それが、また起こったら。

 ひょっとすれば、この力を使えば使うほど、その現象は悪化していくのではないか、という考えもよぎる。

 いや、ここで全てを決する。

 でなければ、自分の人生はここで終わりだ。無惨にも真っ二つになって家に帰ることになるだろう。

 やるしか、ない…!

「今度は何をする気だ、ガキィ‼」

 ボボスが叫ぶ。

「……!」

 そこまでだった。

 タツヴォラの頭には、炎のイメージが駆け巡っていた。

 呑み込まれた腕。炭。

 呑み込まれた木。炭。

 呑み込まれた空気。赤。

 呑み込まれた、斧……。

 ―――炎‼

 一瞬、世界が赤くなった。

 ゴゥアァッ‼

「う、うおおおお!?」

 ボボスの叫びが木霊した。

 彼の持つ斧が、真っ赤な灼熱の炎に包まれ、それはボボスの腕にまで広がり、彼の視界まで奪った。

 ジュ、と聞こえた。

 ボボスの柄を握る腕が焦げ付いたのだろう。

 タツヴォラにはそれが聞こえたし、考えることもできた。

 今が、チャンス……!


 ぼや、けた……?


 激しい頭痛。見えない! 自分の体はまだあるのか? 五体満足であるのか!?

「うぅおぁぁぁぁ!」

 振った!

 体は動いてくれた。だが、ぼやけた視界。

 剣先の抵抗が、タツヴォラの剣を掴む腕に伝わってきた。しかし、浅い……!?

 かわされた!

 ダメだ、と思った。万策尽きた。

 未だ明瞭でない視界の中でタツヴォラの耳に入ってきたのは、狼狽しながらも歯を食い縛っていると分かるボボスの声と、そして自分とは別の叫び声だった。

「終わりだ、ガキィ‼」

 中天に挙げられた斧が、振り下ろされる。

 死ぬ……!

 だが、恐怖はなかった。目をつぶろうとも思わない。ただ、斧が近づいてくる。

 ゴッ‼

「ウグッ…ハッ!?」

 だが、斧は振り下ろされる前に軌道を変えた。タツヴォラの顔面をかすり肩をかすり、地に近付いていく。そしてボボスは、激痛に身を沈める。

 その背後には、ずっと無気力に観戦していたはずの、プギャの姿があった。その手には、盗賊が落としたのだろう、棍棒が握られている。

「タツノオドシゴ・ヴォラグラム! 今こそ“趙雲さん”だ‼」

 どこからともなく声。

 タツヴォラの目が、ヒビノワムと出会って以来見せたことのないほど見開かれた。

 斧を持つ手を掴み。

 回転しながら腰を入れる。

 そして、跳ね上げた!

 すでにボボスの体勢が崩れていたのと、タツヴォラの技の未熟さで、趙雲さんは完全には極まらず、斜めに投げ落とす結果となった。更には、タツヴォラの体勢までもが崩れて、

 ドウッ、ザク!

「うっ!?」

 仰向けに倒れたボボスの首にかすりながら、タツヴォラの剣が突き立った。それでなんとか倒れずに踏ん張ったタツヴォラは、一歩間違えばボボスが死んでいたことに気付いていない。

 茶色の空を眺めるボボス。微動だにせず、彼はこれだけ、小さく呟いた。

「俺の、負けだ……」


 プギャは、盗賊としてではなく、勇者として生きる決心をしたようだった。立派だとタツヴォラは思ったが、もう少し早く動いてくれればとも思った。

「ったく、ずりぃよなぁ、一対一じゃなかったのかよ?」

 お縄になったボボスが舌打ちしたが、タツヴォラから見たらなんのことはなかった。

 勇者が盗賊団の頭領を倒す。

 勇者がタツヴォラ一人だったために一対一の運びとなったが、勇者が二人なら二対一でも構わないのだ。とてつもなく卑怯な思考回路だが、結果的にはプギャも勇者として認められる功績を残せたのだ。

「ま、結果オーライだよね」

 騎士四人と市民一人と老人一人、それに勇者二人の一行は、ボボスを連れて、アジトを出た。

「うむ、よくやったようだな、タツヴォラ君!」

 あのときの声の主は、やはりジュディームだった。

「師匠、お久しぶりです」

「お主を弟子に取った覚えはないわい!」

 デュデュと知り合いだったのが驚いたが、デュデュさえもジュディームには気分的に押されていたのが可笑しかった。

 ビッグたち自警団が盗賊団全員を突入して捕らえた様だ。ただ、一人として抵抗しようとする者はいなかったらしい。

「お兄様、勇者様、見つかったんですね?」

「ふん、あんな大間抜けが勇者だとは信じられないが、そういうことになるのだろうな」

 シューゲンが冷たい視線をタツヴォラに送る。

 シュールも、つられるようにタツヴォラに視線を向けた。

「勇者、タツヴォラ様……」

 タツヴォラが、視線を感じて振り向く。シューゲンとウサギが、自分のほうを片方は冷たく、片方は不気味に見ているので、さりげなくまた視線を戻した。

「これで、正式に勇者になれるんですね?」

 服の裂け目から見える傷が痛々しいリアラ。しかし、彼女の顔は満面の笑みで彩られていた。

「うん、まあ、そうなるのかな?」

「あのときのタツヴォラさん、とてもカッコよかったです!」

「はは……」

 本人にとって見れば頭痛と目眩でほとんどがむしゃらだったので、そんな認識などあるはずもなく、ただ苦笑いしかできなかった。

「まあ、お前なりに頑張ったということだな」

「うわ、なんかゼリエルに褒められると気持ち悪いな」

「な、なんだと!?」

 双子にとってはなんでもない仕事だっただろうが、二人とも嬉しそうな顔をしているので、なんとなく自分も嬉しい気持ちがして、不思議だった。

「よし急ごう、テラメッチャ王都へ!」

 みんなを急かすヒビノワムが一番嬉しそうに見えるのは、タツヴォラの気のせいだろうか。

 タツヴォラは、駆け出してみた。タツヴォラは、空を見ながら走ってみた。

「あ、タツヴォラ~!」

 と、声を上げてイシュエルが追ってくる。

「ど、どうした?」

 らしくない行動を取ったタツヴォラに疑問の声を上げるヒビノワム。

 やりきったのだ。なんとかこうとか、あくせくしながらふらふらしながら。

 それでも自分は、やりきったのだ。

 テラメッチャの空は、いつになく青かった。

 


 騎士がたくさんいた。

 施政官もたくさんいた。武官文官は大半が集合しているのだろう。

 もちろん、王もいた。眼前にいるのだ。

「では、タツノオドシゴ・ヴォラグラム、プギノヤディス・ヤーディス両名を、盗賊団撃滅の功績を元とし、勇者としてここに承認することとする」

 王城の前の庭、儀式の場だった。本当はもっと高位の儀式の場があるのだが、王が神聖なものであると認めることに若干の抵抗を感じると言い、また民にも見える場所がいいだろうということで、ここになった。確かに、王城の正面の大道の延びる道でのことで、まるで見世物のようだった。

「我ら、タツノオドシゴ・ヴォラグラム、プギノヤディス・ヤーディス。この国テラメッチャのため、そしてひいてはこの世界の平和のため、この力尽くすことを誓います」

 プギャは恐らく噛むだろうということで台詞はない。

 もっとも、この儀式を見ているのは、武官文官の家族や、城下町の一部の暇な富豪や位の高い者、またはたまたま見かけた城端町の庶民が集まってきているだけだ。

 王が、告知をしなかったのだ。

「この者たちはいまは功績は騎士に劣るが、いずれこの国のために限りない活躍をしてくれるであろう」

「世界の平和のため、我らは動くものであります」

 ほんの少し笑いを浮かべた、いつもの眠そうな顔。

「……」

「あの、バカ!」

 親衛隊隊長として王の近くに並んでいるヒビノワムは、思わず小さく呟いていた。

 国のためと言えばいいものを、世界のため世界のためと、王をからかっているのだ。

 見るものを少なくすることはタツヴォラの勇者としての認知度を王が下げようとしたためだが、それを逆手に取られているのだ。

「……では、この勇者の証である紋章を授与する」

「ありがたく頂戴いたします」

 受け取る二人。やはりプギャは緊張の余り手が震えがひどかった。

「これでまた、タツヴォラ様に戻ったんだわ……」

 野次馬の中には、武器屋ロアーヌの親子も当然いた。

「あの子が勇者だったとはなぁ?」

「おめでとうございます、タツヴォラ様」

 リアラはまるで、自分の事のように喜んでいた。

「遂に叙勲されてしまったか……」

「お兄様。あの方は何か、勇者としてやってくれるような気がします」

 タツヴォラの横顔を見ながら、シューゲンとシュールの兄妹が逆の意見を述べる。シュールは、巨大蛙の着ぐるみを着ている。

「では、任せたぞ、両名」

「国とは、民で成り立っております」

「……は?」

 王が呆けたように問い返す。彼にとっては、もう会はお開きなのだ。

「勇者とは、世界中の生を持った者たちに、幸せ、平和をもたらす者だと心得ます」

「そ、そうであるのう?」

「タ、タツヴォラ! もう、余計なことは言うな!」

 汗を垂らしながらヒビノワムがかすれ声で叫ぶ。

「勇者にとって、その義務を果たすのに念頭を置くということは、民草を安んじることに最も深く通じるものです。そして、それを守る義務を持つ武官文官、そして王族、これらを、勇者はときとして自らの力として使うことを許されている者、それが勇者だと心得ます」

「な、なんだと!?」

 勇者は、王の上。つまり、この国で最も偉い。遠まわしにそう言っているのだった。

「う、う~ん……」

 青い顔をして膝を付くヒビノワム。

「どこか、相違がございましょうか?」

「バカな! 貴様は王家転覆でも……!」

「いえ、時として、と申したまで。国を治めるのは王様であります。そして我らは、世界を救う勇者。そもそも方向が違うのです。国を乗っ取ることに意味などはありません」

「ぬぅ、しかし……!」

「これは、私の相棒、プギノヤヌス・ヤーディスが悟りを開いた際に口に出したことでございます」

「そ、それは真か、プギノヤヌス・ヤーディス!?」

 王の激しい剣幕に、大勢の人間の前で舞い上がって訳が分からなくなっているプギャが、まともに返事をできるはずがなかった。

「ひゃ、ひゃい!」

「ぬぬぬぬ!?」

「が、頑張ります‼」

 プギャの一際大きな返事に、拍手が巻き起こった。今までほとんど喋らなかった勇者が喋ったので、場の締めとして勘違いされたのだ。

「くくく」

 必死で笑いをこらえるタツヴォラ。何がなんだか分かっていないプギャ。そしてもう一人、笑っている老人がいた。

「ほっほっほ……。とんでも勇者、誕生じゃのぅ…」

 テラムー暦184年、テラメッチャに、何十年ぶりに、勇者が誕生した。

 もちろん、活躍はまだまだ先の話である。


完結です。はてさて、このおバカさんたちのこれからは一体どうなっていくことやらー。

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