1話 異世界にやってきました。
「あ〜眠い。本当これっきりだからなお前の朝練付き合うの」
大あくびをしながら大地に視線をやる。今は学校へ向かって仲良く登校中だ。
「え、無理だよ兄ちゃん。それ言うの何回目?? まあ、さすがに学年1位で生徒会長の兄ちゃんでもわかんないか」
そう、大地が言った通り鳴海は毎回学内テストで1位を取り続けている秀才だ。全国模試でも毎回全教科一桁に入っている。さらにいえば高校1年で副生徒会長に抜擢され、2年からは生徒会長に就任。そして現在に至る。その上、180㎝近い高身長と整った顔立ち、ミステリアスな雰囲気を醸し出しているにも関わらず人当たりのいい性格から学内の人気も高い。
「うるせーな、お前覚えてんのかよ」
「127回」
「……そういうとこだけ記憶力いいのな。それがテストで発揮されれば俺も鼻が高いんだけどな」
大地の無駄な記憶力に感嘆しながらも弟のテストの順位を思い出して頭をかかえる。
「勉強勉強うるさいんだよ兄ちゃんは、それに俺にはこれがあるからいいの!!」
大地は背負っている竹刀袋を指差した。
天草 大地は勉強が全くと言っていい程出来ない。しかしながら、運動面に置いては兄の鳴海を遥かに凌ぐ。スポーツにおいてもその才能は計り知れないモノがあるが武道に焦点を当てれば正に神の子。実際、新聞でも100年に1人の逸材とかその他賞賛の言葉が書かれていたのを目にするのはそう少なくない。現在は剣道にハマっていて最高段である8段を取得している。その他にも空手、柔道、合気道、ボクシング、中国拳法etcとその才能は日々進化を続けている。容姿に至っても鳴海と同じ位の背丈と鍛え抜かれた無駄のない鋼の肉体、清潔感のある髪型に爽やかな笑顔と鳴海に負けず劣らずの人気者である。
この天草兄弟は2人で完璧な文武両道と中々に凄い兄弟なのだ。
もう少しで学校に着きそうな時大地が急にその場に立ち止まる。
「あ、見て兄ちゃん。アレなに??」
大地が道端に突然指を指した。
そこには黄金に光輝き、中心に六芒星が描かれた魔法陣が出現していた。
「あーアレね、多分魔法陣じゃねーか?? 映画とか漫画とかでよく見たりするって……はぁ!? 魔法陣!?」
華麗なノリツッコミを披露しながらも今起きている現象に驚く鳴海。
「おー!! 魔法陣とかかっけーな兄ちゃん!!」
馬鹿の悪い癖その1、なんの警戒もなく近づく。が発動し大地が魔法陣に飛んでいく。
「おい大地!! 不用意に近づくんじゃねーよ馬鹿!!」
慌てて大地を止めるが、既に大地は魔法陣の中に入っていた。
「兄ちゃん、俺強そうでしょ!!」
光の中心に大地は仁王立ちで偉そうに立つと、鳴海にピースをプレゼントする。
「たくっお前、ちょっとは考えてから行動しろよ。動物じゃねーんだから」
やっと大地に追いつくといつものごとく説教を始める。
「兄ちゃん、ちょっとこれ見て。兄ちゃんなら読めるんじゃない??」
「人の話聞けよ……ん? これ筆記体の英文じゃん。どれどれ……」
鳴海は魔法陣の文字に視線を合わせる。
【汝、勇者の義の選定を受けし者。その覚悟あるならばこの魔法陣に入られよ】
「……だってよ。勇者召喚てなんだよ。意味わかんねー」
「勇者とか超カッコいいじゃん!!」
キラキラと目を輝かせている大地をよそに鳴海はハァーっとため息を吐いて、学校に向かうために歩き始めようとした。
その時、魔法陣がさっきよりも強く輝き始めた。そのまま一層強く光ると、目を開けていられないくらいに
までその強さを増した。
「うわっ!? 眩しい!!」
「目がくそ痛てー!!」
二人は咄嗟に袖で目を覆った。暫くして、やっと目の痛みが引いてきた二人は腕を下ろして辺りを見回した。
「あの〜……」
すると突然、女性の綺麗で申し訳なさそうな感じの声が響いた。鳴海と大地は声の方に顔を向ける。
「よ、ようこそおいで下さいました。異世界ヴァールを救うために力をお貸し下さい!! お願いします!! 勇者様!!」
そこにはプラチナブロンドをなびかせ、白いドレスに身を包んだお姫様? が鳴海と大地を待ち受けていた。
「……え、何コレ」
かくして天草兄弟は異世界ヴァールに召喚されてしまったのだった。