表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/4

終焉

『これは、私からの感謝の印です。貴方たちが危機に陥った時、これを使えば私はいつでも駆けつけます』

『これは、私からの感謝の印です。貴方たちが危機に陥った時、これを使えば私はいつでも駆けつけます』

『これは、私からの感謝の印です。貴方たちが危機に陥った時、これを使えば私はいつでも駆けつけます』

『これは、私からの感謝の印です。貴方たちが危機に陥った時、これを使えば私はいつでも駆けつけます』

『これは、私からの感謝の印です。貴方たちが危機に陥った時、これを使えば私はいつでも駆けつけます』

『これは、私からの感謝の印です。貴方たちが危機に陥った時、これを使えば私はいつでも駆けつけます』

『これは、私からの感謝の印です。貴方たちが危機に陥った時、これを使えば私はいつでも駆けつけます』

『これは、私からの感謝の印です。貴方たちが危機に陥った時、これを使えば私はいつでも駆けつけます』…


 海に行ってもダンジョンを巡っても、今日もこの世界を抜け出す手立ては見つからなかった。

 あらゆるモンスターを蹴散らす力とどんな装備でも呆気なく買えてしまう財力を持つ俺が手に入れたのは、今日も数限りなく増え続ける女神と、彼女から無尽蔵に与えられる髪飾りだけだった。いつまでも響き続ける全く同じ言葉にも、既に俺は慣れきっていた――いや、正確に言うとほぼ諦めていた。ゲームの世界に転移してしまった以上、永遠に続くバグを『内部』から止める力は、どれだけレベルを高めても手に入れる事は出来ないからだ。


 何百日、何千日前から続く全く同じ日程をこなした俺は、そのまま家路を急ぐ事にした。


 無数の女神がずらりと並び、笑顔で様々な言葉を語りかける光景の中、俺の視界には巨大な『山』がいくつも見えていた――いや、正確には『山』ではないかもしえrない。その山肌は、あの女神を構築する色でびっしりと埋め尽くされていたである。

 そして、山の大きさは毎日のように広がり続けていた。当然だろう、あの山を構成するのは山のデータが変貌を遂げ、無限に増え続ける巨大な塊となった女神の大群なのだから。


 何億何兆、いや何京もあるかもしれない山に近づき、この世界を脱出する手がかりを探そうとした事もあった。

 しかし、どれも最終的には無駄に終わった。無数の女神の大群を踏んづけ、滑らかな手を振りほどき、押し寄せる体を掻き分けて進んでも結局は――。


『これは、私からの感謝の印です。貴方たちが危機に陥った時、これを使えば私はいつでも駆けつけます』

『これは、私からの感謝の印です。貴方たちが危機に陥った時、これを使えば私はいつでも駆けつけます』

『これは、私からの感謝の印です。貴方たちが危機に陥った時、これを使えば私はいつでも駆けつけます』

『これは、私からの感謝の印です。貴方たちが危機に陥った時、これを使えば私はいつでも駆けつけます』

『これは、私からの感謝の印です。貴方たちが危機に陥った時、これを使えば私はいつでも駆けつけます』

『これは、私からの感謝の印です。貴方たちが危機に陥った時、これを使えば私はいつでも駆けつけます』

『これは、私からの感謝の印です。貴方たちが危機に陥った時、これを使えば私はいつでも駆けつけます』

『これは、私からの感謝の印です。貴方たちが危機に陥った時、これを使えば私はいつでも駆けつけます』

『これは、私からの感謝の印です。貴方たちが危機に陥った時、これを使えば私はいつでも駆けつけます』

『これは、私からの感謝の印です。貴方たちが危機に陥った時、これを使えば私はいつでも駆けつけます』

『これは、私からの感謝の印です。貴方たちが危機に陥った時、これを使えば私はいつでも駆けつけます』

『これは、私からの感謝の印です。貴方たちが危機に陥った時、これを使えば私はいつでも駆けつけます』

『これは、私からの感謝の印です。貴方たちが危機に陥った時、これを使えば私はいつでも駆けつけます』…


 ――何千兆個の髪飾りと、同じ数の女神を受け取ると言う結果に終わったからである。



 そして、『空』もまた同様の状態だった。

 あらゆるデータが女神に変換され続けている中で、青い空も白い雲も例外なく美しき女神に変換され、分厚い層を形作って限りない笑い声をこだまさせるようになっていた。


『あはははは♪』あはははは♪』あはははは♪』あはははは♪』あはははは♪』あはははは♪』あはははは♪』あはははは♪』あはははは♪』あはははは♪』あはははは♪』あはははは♪』あはははは♪』あはははは♪』あはははは♪』あはははは♪』あはははは♪』あはははは♪』あはははは♪』あはははは♪』あはははは♪』あはははは♪』あはははは♪』あはははは♪』あはははは♪』あはははは♪』あはははは♪』あはははは♪』あはははは♪』あはははは♪』あはははは♪』あはははは♪』あはははは♪』あはははは♪』あはははは♪』あはははは♪』あはははは♪』あはははは♪』あはははは♪』あはははは♪』あはははは♪』あはははは♪』あはははは♪』あはははは♪』あはははは♪』あはははは♪』あはははは♪』あはははは♪』あはははは♪』あはははは♪』あはははは♪』あはははは♪』あはははは♪』あはははは♪』あはははは♪』あはははは♪』あはははは♪』あはははは♪』あはははは♪』あはははは♪』あはははは♪』あはははは♪』あはははは♪』あはははは♪』あはははは♪』あはははは♪』あはははは♪』あはははは♪』あはははは♪』あはははは♪』あはははは♪』あはははは♪』あはははは♪』あはははは♪』あはははは♪』あはははは♪』あはははは♪』あはははは♪』あはははは♪』あはははは♪』あはははは♪』あはははは♪』あはははは♪』あはははは♪』あはははは♪』あはははは♪』…



 俺が最後に、青い空を見たのは何百日前になるだろうか。綺麗な海を見たのは、何千日前だろうか。


 楽をしたい、簡単にこなしたい、自分の好きなように操りたい――そんな欲望が、この世界を作り出してしまった。これまで何千何万回と後悔をしてきたが、いくらやっても事態が改善される事は無かった。ただ俺の目の前にあるのは、僅かな希望を次々に消し去るかのように広がる、女神によって覆われた『楽園』だけだったのだ。

 


 

 そして、家の近くに戻ってきた時、俺は突然妙な感情を覚えた。それが『違和感』である事に気づくのには若干の時間を費やした。女神に囲まれた生活の中で、喜怒哀楽の感情すら麻痺しかけていたのかもしれない。

 だが、次第に俺の心の中に、その感情というものが蘇り始めていた。

 

『お帰りなさい、勇者様♪』お帰りなさい、勇者様♪』お帰りなさい、勇者様♪』お帰りなさい、勇者様♪』お帰りなさい、勇者様♪』お帰りなさい、勇者様♪』お帰りなさい、勇者様♪』お帰りなさい、勇者様♪』お帰りなさい、勇者様♪』お帰りなさい、勇者様♪』お帰りなさい、勇者様♪』お帰りなさい、勇者様♪』お帰りなさい、勇者様♪』お帰りなさい、勇者様♪』お帰りなさい、勇者様♪』お帰りなさい、勇者様♪』お帰りなさい、勇者様♪』お帰りなさい、勇者様♪』お帰りなさい、勇者様♪』お帰りなさい、勇者様♪』お帰りなさい、勇者様♪』お帰りなさい、勇者様♪』お帰りなさい、勇者様♪』お帰りなさい、勇者様♪』お帰りなさい、勇者様♪』お帰りなさい、勇者様♪』お帰りなさい、勇者様♪』お帰りなさい、勇者様♪』お帰りなさい、勇者様♪』お帰りなさい、勇者様♪』お帰りなさい、勇者様♪』お帰りなさい、勇者様♪』お帰りなさい、勇者様♪』お帰りなさい、勇者様♪』お帰りなさい、勇者様♪』お帰りなさい、勇者様♪』お帰りなさい、勇者様♪』お帰りなさい、勇者様♪』お帰りなさい、勇者様♪』お帰りなさい、勇者様♪』お帰りなさい、勇者様♪』お帰りなさい、勇者様♪』お帰りなさい、勇者様♪』お帰りなさい、勇者様♪』お帰りなさい、勇者様♪』お帰りなさい、勇者様♪』お帰りなさい、勇者様♪』お帰りなさい、勇者様♪』お帰りなさい、勇者様♪』お帰りなさい、勇者様♪』…


 大量に出迎える女神の後ろに聳えていたのは、その女神の体が無数に絡み合い、押し合いへし合いをしながら笑顔で形作る巨大な『山』だった。そこにあるはずの俺の家――無数のお金や数々の装備、体を休めるベッドなど様々な設備がある本拠地は、跡形も無く消え去っていたのである。



 その様子を見ているうち、俺の口元は自然に緩み始めた。笑顔と言うものになり始めたのだろう。

 自分の家までもがバグの餌食となり、数限りなく溢れる女神になってしまったと言う目の前の事象が意味するのは、それまで手付かずだった俺に関する事柄を構成するデータもまたバグの例外ではなかったと言う事だった。あっという間に家の痕跡が消え去ったという事は、やがては俺自身も痕跡を一切残さず新たな『女神』になる可能性が高いのだ。


 言い換えれば、この世界から逃げたいと言う俺の願いが、叶うかもしれない、と言う事でもあった。

 苦しみも悲しみも何もかも消え、全ての空間を埋め尽くし、自分の肉体に埋もれながらただ毎日笑顔で勇者の名を呼び続け、感謝の意志を示し続ける――恐らくそれが、俺が『外の世界』で願っていた最高の光景なのかもしれない。


 そのような事を考えているうち、次第に俺の瞳から水滴が零れてきた。これが出てくるという事は、今の俺は悲しさや嬉しさなどの感情が溢れ、自分で止める事が出来なくなっていると言う事でもあった。


 きっと、これで良いのだろう。バグを起こした者がそのバグに呑まれ、欲望の一部となって永遠の時間を過ごす――きっとそれが、ゲームの世界に転移した俺に与えられた、真の生き方、そして『制裁』なのだから。



『うふふ、勇者様が笑っています♪』

『きっと楽しい事があったんですね♪』

『良かったですね、勇者様♪』

『うふふ、勇者様♪』

 

『うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』…


≪終≫

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ