第7話 【Usual】
その雫は、終わりを知らせる。
夕焼けのように赤い空。透明な地面。目の前には、師と、華憐やその仲間達。そして、遼太。
「なあ、祐!お前はよー、もう少し筋肉つけた方いいよなー」
突然話を振られる。
「え、あ、そう?」
「おい祐。いいから、こっちきて座れよ」
駆に言われ、「あ、うん」と椅子に座って話を始める。
「筋肉っつったら後藤が一番だろ!なんたってゴリラレベルだもんな!」
敢が馬鹿にするような口調で言う。
「うるせぇひょろすけ」
「な、なんだとマッチョゴリラ」
「喧嘩はやめなよ」
師はそんな僕達を穏やかな目で見ている。
他愛もない会話。皆がこの日常を楽しんでいる。
だが急に、地面に亀裂が入り、崩れていく。
「………ッ!?」
「どうした?」
声をかけられて、祐は夢から覚めた。いつも夢に見る透明な地面。一体なんなのだろう。
どうやら話している途中で疲労のせいか睡魔が襲い、寝てしまったようだ。
「だいぶ疲れてるみたいだな…帰って休んでもいいぞ」
「いえ…」
皆が心配そうな顔で見てきたが、とりあえず話は続けるらしい。
「最近俺が気になっているのは『家』と呼ばれる組織だ」
駆が話す。
「家?聞いたことないな」
家。どこかで聞いたことがある気がする。どこかで…
「どうした祐。知ってるのか」
「あ、いや、なんかどこかで聞いたことあるような…って思って」
「『家』とは最近本格的に活動してきたらしい。かなり前から活動はしていたらしいが、何をしていたのか、どのような組織なのか、全くが謎だった」
かなり前。そこが引っかかった。が、そのワードの何に引っかかったのかが自分でも分からない。
「活動内容は、よくは分からないが魂喰い関係の研究をしているらしい」
魂喰い関係の研究…家…
今日の話で分かったことは、家の存在だけだ。それでも大きな収穫だろう。
駆の情報収集能力は高校生とはいえ底知れないな、と思った。
僕は以前彼らとあってから何度か地下用具庫で交流があった。
同じ魂喰いとして助け合って生きていけるのだから、これほど心強いものはない。
*
「ぎゃああああああああ!」
涙を流し、逃げ惑う男。だがしかし無慈悲な刃がその肉体を切り裂く。
「なかなかいい瑠魂じゃないか」
鍵山はその瑠魂を値踏みするように見る。
ポツンと雫が一滴鍵山の頭におちてきた。
「…雨ですね」
「……そのようだね、有原君」
「…………………鍵山さん」
珍しく、工藤が口を開いた。
「………早く行きましょう」
「ふむ、そうだね。雨だし、急がねば」
*
朝に届いた新聞を見た。衝撃的な事実を知った。
あの師がSEOに捕まったらしい。捕獲で済んだそうだが。記事には、「優れた瑠魂だったため、完全に駆逐するより捕獲の方がよいと判断した」と書いてあった。せめてもの救いだった。
とはいえ、相当のショックだ。何か師のためにできることはないのだろうか。
虚ろな気分のまま登校する。
だがそのときまだ祐は知らなかった。
危険がもうすぐそこまで迫ってきているということを。
「もうすぐ翔良高校に到着する」
「…気を引き締めていこう」
幕開ける、振動。