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Rober -奪い続ける者-  作者: 椎葉
第2期
39/51

第39話 【Rain】

終盤突入――!

 崩れていく研究所を出る途中、沢山の死体を見た。

魂喰いである、研究員の死体。それはおびただしい量だった。


 まさか自分達が利用するために復活させた『喰神』が、自分達を喰らうほど成長しているとは考えもしなかっただろう。

 自業自得、ということだろうか。



 入る時に破壊した扉が見えた。

「もうすぐだ――!」


 外に出てみれば、大嵐でも来そうなほど真っ暗だった。

鉛筆で塗りつぶしたかのように黒い雲。


 (いや、雲じゃない……!)

それは、雲などではなく、さっきの黒い物体。それが集まっているのだ。


 そして、その集まっていく物体が1か所に凝縮していく。

そうしてできたのは、眼球を模したかのような漆黒の物体。なんともおぞましい気配がする。



 「あれが……喰神本来の姿……!」


 そしてその喰神は、なにやら赤色の球体を発言させた。



 その球体は、そのまま真下――地上に落ちていき、


 ドオオオオオン、という音とともに街を1つ消し飛ばした。



 僕はその光景をしばらく呆然と見ていたが、やがて足が勝手に動き出した。

(こんなこと………絶対に許されない……!)

 さっき赤い球体が落ちた場所から無数の魂が浮かんでいく。ヒトの魂、動物の魂……。

そしてそれは喰神の(眼球に見立てて)瞳孔部分に吸い込まれていく。


 許される筈がない。

こんなにも勝手に命を奪う行為が。

 あっていい筈がない。

 止めなくては。今すぐ、この手で。



 だが、3分ほど喰神のところへ向かって走り続けていて、僕の頭は冷静になりつつあった。


 そこで湧き出てきたのは恐怖。


 本当に、止められるのだろうか?それ以前に、自分が先に死ぬのではないのか?

気づけば僕の足は止まっていた。まるで地面に縫い付けられたかのように動かない。


 「…………!?」

震えが止まらない。怖い。死ぬのが怖い。


 (ここまで来たのに……)

 「くそッ!動けよッ………!」

頭では行かなければならないと思っているが、心では行きたくないと思っている。



 雨が降ってきた。それは、自分が存在した証さえ流し去るような強さの雨。


 頭の中に声が響く。それは、懐かしい、母親のような声だった。


 『あなたが決めるのよ』

まるで雨が話しかけてきているかのように。

 『選択肢はあるわ。ただ、先のことは分からない』

「なんの……ことだ…………」

 『消えるのよ、全て消えてなくなる。そして変わるの』

 頭が痛い。

 『今のあなたは死ぬのよ。そして新しいあなたが生まれる。これは、あなたのお話だから』


 声が消えた。

 何か縋るものが欲しくて、何もない空間に手を伸ばした。


 僕はどうすれば。



 「来て」

ふと聞こえたのは、鈴のように軽やかで優しい声。

「だ…れ………?」

 振り向けば、そこには華憐が立っていた。


 「なんで………?」

華憐は何も言わずに僕の手をとった。そしてどこかへ歩き出した。

 僕はただついていった。理由など要らなかった。


 今はただ、誰かの傍にいたかった。



 華憐が僕を連れて行ったのは、建設途中のビルだった。

僕らはそのビルの1番高い骨組みに腰かけた。


 「こうやって、終わっていくものなのかもね」

華憐が呟いた。

唐突に、終わりは来るのだ。いつも。そういうものなのだ。


 「あれが何かは知らないけど、祐君はあれを止めようとしているんでしょ?」

「…分かるの?」

 華憐はうん、と頷いた。


 ここから見えるのは、逃げ惑う人々、駆け付けるSEO、喰神、魂……。

僕はあの時に誓ったのだ。かならず止めると、父親に。



 「私ね、祐君のこと、好きだった」

華憐が唐突にそう言った。今の状況を理解しているのか、いや、理解してこその発言かもしれない。

 華憐の方を見ずに、目を見開いた。そして、ゆっくりと閉じた。


 華憐はそんな僕の様子を見て、

「返事は要らないよ」

と笑った。


 僕は何も言えなかった。


 ただ、2人でこの景色を眺めていた。そうしていたかった。



 しばらくして、僕は立ち上がった。

「もう、行くよ………」


 華憐は黙って頷いた。




 眼下の景色はもはや戦場。

僕はもう、何もかも失った。

 日常も、父親も、そしてこれから自分の命も失うのだろう。


 空っぽ。空っぽだ。

僕はもう空っぽ。だからこそ、足掻いてやる。

この命が消えるその寸前まで、足掻き続けてやる。


 華々しく散ってやる。



 僕は戦地に飛び込んだ。

ここには、悲しみの雨が降り続ける――。

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