第2話 【Notice】
日常に隠された、残虐な影。
昼休憩の終わりを知らせるチャイムがなっている。
慌てて教室に戻ると、先生がすでに来ていた。
「祐。遅いぞ、時間を見て動け」
「すみません…」
すぐに準備を済ませて、シャープペンシルの芯を出すと、前の席から声が聞こえた。
「先生。祐は一応悪くないですよ」
遼太だ。弁解してくれているのか?
「祐がいたの図書室でしょ?あそこ時計止まってますもん」
確かに時計は止まっていた。ただそれを言うと言い訳だと言われるかと思って言わなかった。
「本当か?じゃあ修理の必要があるな。祐。すまなかったが、他のところにいる時でも時間を見て行動するようにしろよ」
「はい。分かりました」
遼太のおかげで面倒なことにならずに済んだ。いつも遼太には助けられている。
*
下校を促す校内放送が流れている。
遼太と一緒に教室から出ると、華憐が廊下を歩いていた。部活に行くところらしかった。
「華憐ちゃん。部活頑張ってね」
手を振りながら言うと、ありがとう、と微笑んでくれた。
「なんだなんだー、お前あいつとラブラブじゃぁん!」
登下校用の靴を履いていると、遼太がからかってきた。
「うるさいなぁー、遼太は鈴と仲良くなれたの?」
「おおよ、当たり前よ、俺には圧倒的なカリスマ性があるからな」
自慢げにいう遼太と、橋の前で別れて帰る途中だった。
1台の車が目の前で止まった。なんだ、と思っていると、誰か長身の男が出てきて、腕をつかまれた。
助けを呼ぶために叫ぶ間もなく、車の中に放り投げられ、手足を縛られた。ガムテープで口まで封じられ、助けを呼ぶことができない。
(まさか、この男が高校生誘拐事件の犯人…?)
なすすべなく、大人しくしているように見せかけて逃げる算段を考えていた。
すると、しばらくしないうちに車からおろされた。そこは古びた小屋のような場所だった。
(ここは…?)
冷静に頭が回らなくなっていた。小屋の中にはついさっきまで生きていたかのような死体があったからだ。
一体何をされるのだろう。悪感が走った。
男がこちらに近づいてくる。まずい。身動きがとれない。
口を封じたガムテープを剥がされた。ここまで来れば叫んでも無駄ということだろうか。
それでも解放感はあり、苦しさが薄れた。
「ぷはっ…!くっ…」
安心もできない間に首を掴まれ持ち上げられた。
(死ぬ)
直観的にそう思った。
苦しくて縛られた足をジタバタさせると、大人しくしろと、頭を床にたたきつけられた。
「がはっ…!」
ヤバいヤバいヤバい。
そうだ。自分は魂を喰らうもの。
(こいつの魂を喰えば…)
自分が人外の存在であることを思い出し、反撃にでようとする。
だが。
「なんでお前、魂が喰えねえんだ?」
(!?)
「そうかお前、同族だったのか」
魂が、喰えない?
この男、まさか…
「お前も俺の魂が喰えないだろ」
確かに喰えない。頭が混乱している。
(え、なんで?どういうこと?)
「俺も、お前と同じだ」
独りでは、なかった。