第1話 【Beginning】
気が付けば僕は、近所の公園のベンチに座っていた。
小さい子供達が砂場で遊んでいる。兄弟だろうか。なんとも微笑ましい光景だ。そこに親が来てそろそろ帰るよ、と言い、泣く子供達をなだめながら手をつないで帰っていく。こんな日常に感謝して、僕は腰をあげた。
まっすぐに家に帰り、夕日の先に明日を見るのだった。
僕はそれが夢だと気付いた。
*
生まれた時から身体的や精神的に変わった人は多数いる。いわゆる障害者などだ。
佐々木祐は、確かに変わっていたが、そのような人達の部類には属さない。
彼には今は両親がいない。前はいた。今はいない。死んだのだ。2年前に起きた一家惨殺事件で、ただ一人生き残った子、それが祐だった。
僕にその気はなくても、僕と関わったものは死ぬ。僕は人間じゃない。僕はそう、例えるなら人の姿をした死神だ。正確に言えば、僕は魂を食べるのだった。僕に魂を食べられた者は当然死ぬ。成仏もできずに、その度に僕は堪えきれない吐き気に襲われるのだった。ただ、そうしなければ生きていけない。
今日も公園で見かけた親子を食べた。何故、僕だけが。
悪いことだとは、知っている。人の魂を喰らうことなど。
だけど、そうするしかないじゃないか。
*
鞄を持ち、玄関のドアを開けたその先。光輝いた世界に出ると、自分が人外の存在だということを忘れてしまうほどに気分が高揚してすがすがしい気分になる。高校の校門をくぐると、友達がおはようと挨拶してくれる。教室に入ると親友の上遠野遼太が待っていた。
「お、来た来た、おせーじゃん祐、休みかと思ったぜ!」
遼太はいつもハイテンションだ。朝っぱらからどつかれた。
「ごめん、ちょっと寝坊してて…」
「おめーらしくないな、寝坊とか!」
いつも静かな祐とは対称的に、遼太は明るくて、行動力があった。昔から自分を支えてくれている人の一人。自分の席に座ってちらりと右斜め前方に目を向ければ、星乃華憐が静かに本を読んでいた。華憐は祐がひそかに思いをよせている人だ。もの静かで、知的で…なにより優しく、一見地味だが笑うと可愛いそんなところが好きだった。
「なぁー祐ー!この話知ってるか!今朝ニュースでやってたぜ」
急に前の席の遼太に話かけられてびくっとする。
「高校生行方不明事件だよ!あれ怖いよなーここらへんで事件発生してるんだぜ」
「それなら新聞で見た」
確か被害総数は20人を超えるとか。
「もしも誘拐されそうになったら祐は足速いから逃げれるよなー」
確かに祐は足が速かった。100mは11秒代で走れたし、なぜ陸上部に入らなかったのか不思議に思われるくらいだった。
「上遠野も速いだろ」
遼太は親友の祐が入らなかったという理由で陸上部の勧誘をけった。祐より速くはないのだが。
祐が速いのも、やはり普通の人間ではないからかもしれない。
なんの変哲もない日常。祐にはそれがすごくありがたかった。
しかし、この事件に祐達がまきこまれるのは、今の彼等には知りえないことだった。
Roberとは
ここでは、奪うという意味のRobと、~する人という意味のerでRober(奪う者)という意味で使われる。