EP2
遠藤さんは僕の口に放り込んだスプーンを使って一掬いした後、薄い桃色の唇を艶かしく開いて舐め上げるように口に含んだ。
「ふふ、斉藤君の味がするわ」
勿論そんな味なんてするわけがない。
「してないよね。絶対に生クリームの味しかしていないはずなのだけれど」
僕が身を持って先行体験したのだから間違いないと、少しばかり顔を赤らめている遠藤さんに向かって言った。
「それはそうと斉藤君は知っているかしら。人の口の中には700種類もの菌が潜んでいるそうよ。つまり今、私の口の中を何百というカズキンが犯しまくっているの。もう私、お嫁に行けないわ」
一体何を言っているのだろうかこの人は。行けないわけがない。
言い得て妙ではあるけれど、産まれたての赤子でもないのだから虫歯菌など今更ながらに気にすることではないはずだ。
あと遠藤さんに花嫁願望があったことに驚きである。
「その例えでいくと何万、何百万という人たちが大変な目にあっていることになるよね」
「そう。斉藤君は私の知らないところ案外プレイボーイになっていた、とおっしゃるのね」
「違う、そうじゃない。語弊だよ」
「ふふ。安心しなさい、冗談よ。そろそろ斉藤君の中に送り込んだ私の成分が犯し始めているのではないかしら。晴れて同じ菌を分かち合った二人になれたということよ」
それも冗談であってほしいのだけれど。
ところでなんだかロマンスの欠片も感じられない言葉を並べる遠藤さんだったけれど、照れ隠しと取ってだろうか。
いつもなら面と向かって堂々と言ってくるのに僕と目を合わそうとしない。
もしかしなくてもさすがの遠藤さんもミジンコ並の羞恥心はお持ちなのかもしれないと僕は思ったが対する僕にも変化があった。
耐性でもついたというのだろうか、こうして遠藤さんに弄ばれることに対して平然としていられるのだ。以前の僕からは考えられない進歩である。
そう考えると慣れというものは不思議なものだ。
「ところで話は変わるのだけれど、このパフェを食べきれるかどうかという問題は置いておくとしてこの後はどうするつもりなんだい」
遠藤さん側の断面が減り、僕の方は一切手つかずの一見せずともバランスが悪くなったパフェを前にして半ば無理やり……いや、ほぼ強制的に連れ出されて来たわけだけれどこの後の予定はどうするつもりなのか気になった僕は聞いた。
遠藤さんに限ってノープランということはないだろう、何かしら考えてきているはずなのだから。
「この前ライブの事、約束してしまったでしょう? それの打ち合わせに行くのよ」
どうやらライブの事を気にかけてくれていたようだった。
良かったね要君や、君の熱い思いが無碍にされなくて済みそうだよ。
それはそうと僕としても実は予定がないようであるのだ。
「じゃあ早く食べないとね。僕も買い物に行こうと思ってたんだ」
そう、何を隠そう本日は牛乳と卵の特売日なのだ。
僕がそう告げると遠藤さんの眉がピクリと動き、即座に口を開いた。
「何を言っているの? 貴方も一緒に行くに決まっているでしょう? 」
「……? や、僕が行く必要性が感じられないのだけれど……」
いや、確かに大義名分はスーパーに行きたいからというまるで取ってつけたような理由なのだけれど、しかしそういう態とがましい理由では無く、純粋に僕が打ち合わせの場に立ち会うことの必要を感じなかった。
あけましておめでとうございます。
少しだけの更新ですみません。




