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日陰男と高嶺の花の恋愛ジジョウ  作者: ナナモヤグ
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EP4

 後方から怒濤の勢いで追いかけてくる諸君達には付いてくるなの一言くらいは言いたくもなるのだがきっと聞く耳ななんて持ってはくれないだろう。

 何故って? そりゃあ確かに人間だもの。せっかくコミュニケーションを取ることができる人間なのだ、何事も話し合いで解決すべきだとは僕も思うよ? むしろそうであるべきである。全僕が平和になる。

 だけれど、残酷なことに命乞いと話し合いは全くの別物なんだよね。僕が泣くまで君たちは追いかけるのを止めてくれないことくらいはいくらなんでも分かるというものさ。

 そんな平和的解決の場を設けることは不可能だと悟りながらも非常口の手前までやってきた僕は勢いよくドアノブに手をやって扉を引いた――、のだが……。

 グンッと体がドアに惹きつけられる感覚と、走ってきた勢いが相重なって僕の身体は扉に吸引されるかの如く衝突した。


「痛っー……!?」


 何があったのかという状況整理が出来ないままに鉄扉の独特な重低音が辺りに鳴り響き、鞭打つかのように強打した身体が痛く……、ただただ痛い。

 結論から言えば、非常時に使用するために備えられている非常口だというのに今日に限って鍵が閉まっていたのである。


 ……嘘やん?


 それはもう、非常口という名にあるまじき姿だと思わないかね。

 非常時に使うから非常口なのに閉まってるってなんでやねんとか個人的な感想はさておいて、顔面を強打し身体が鞭打ち状態になってしゃがみこむ僕の姿は、後ろから来た人たちも大丈夫か? と声を掛けたくもなる程に痛々しい光景になっている違いない。むしろ純粋に痛い。 

 そんな鈍い痛みを堪えながら、チラリと目に映った窓を見て不意に思った。これがきっと漫画の世界のイケてるメンズならここが建物の二階だなんて概念は無視してスーパーヒーロー着地よろしくなんて馬鹿げた真似もするのだろうけど、そりゃあ出来ないなと。


 はてさてどうしたものかと迫りくる面々に目を向けると思っていたよりも数が多くて後退する通路を完全に塞いでしまっているではないか。

 ははは、そこまで重厚な壁を作らなくともこの斉藤さんを捕まえるのに2人も準備すれば事足りるというものを。この斉藤さん相手に何をそこまで慎重になる必要があるというのだろうか。

 逆にここまで盛大だと清々しいというかなんとかいうか。見向きもされなかった一般人からVIP扱いに格上げされたようで嬉しいやら悲しいやら。

 痛みに悶える僕に近づいてもいいものか、憐みのような表情を浮かべる面々もどう対処すべきなのか困惑している様子でいたその時――


「斉藤ゥーー!!」


 何処からともなく僕の名を呼ぶ女性の声が聞こえてきたのだ。

 現世において、既に絶滅危惧種だと思い込んでいた主人公スーパーヒーローは確かに現存していたようだ。

 何処からともなく僕の名を呼ぶ女性の声が聞こえてきたのである。

 なんとなくサイトゥーになっている気がしないでもないけれど、僕はこの声色を知っている。

 換気の為にと開けられた窓から――、2階であるにも関わらず窓から飛び込んできた燕服の女性を僕は確かに知っていた。

 まさか用務員の人たちも2階の窓を開放していることで虫が入り込むことはあってもまさか人が飛び込んでくるとは思いもしなかったことだろう。


「お嬢様から聞いたぞ斉藤!!無事か!?」


 スーパーヒーロー着地よろしく、華麗に着地を決めた日笠さんが僕に背を向けたまま言う。

 もうどうやってここまで上がってきたんだろうとか、そんな些細な疑問を抱くのはこの際辞めておこうとその姿をみて思った。

 

「非常口に少しやられました」


「何!? それは許せんな!!」


 キリッと非常口を睨む日笠さんに少しだけほっこりしたのは内緒である。


「ところで斉藤、この後お嬢様と予定があるのだろう? 急ぐぞ!! 私が怒られてしまう」


 どうやら遠藤さんはこうなることを見越していたのか、日笠さんをも巻き込んだようである。


「僕も怒られそうなので急ぎたいんですけどね、生憎と逃げ場が無くて」


 そう言って僕は通路を塞ぐ男たちに指をさした。


「む、いくらか知っている顔も混じっているようだが……。すまないが、斉藤と私は急いでいるのだ、そこを開けてはくれないだろうか」


 すると痛みが引いてきても尚、座り込んでいる僕を他所に日笠さんは早々に行動に移していた。

 こういうことがスッと出来るところを羨ましく思う。

 きっと日笠さんの影響力をもってすればモーゼの如く道が開かれることだろう。


「駄目です、俺たちはそいつに話を聞く義務があるんですよ」


 ところが義務教育は終わっているはずなのに何かの義務に憑りつかれているかのように先陣を切って追いかけてきていた一人が日笠さんに物申した。


「そんな義務は棄ててしまえ。お嬢様がお待ちになれているのだ、それでもお前たちは私たちの行く手を阻むというのか」


 されども日笠さんも相手の弱みに付け込むような言い方をして彼らを説得する。

 これには遠藤さんに迷惑が掛かるという自責の念と、僕に話を聞きたい――あわよくば殴りたいという欲が重なってザワザワとし始める。

 しかし、それらを一刀するかのように一人が大きな声で言った。


「それでもです!!」


 その無駄に覚悟が決まったような良い表情を何か別の所に活かせなかったのだろうか。

 是非とも別の所に活かしてほしい、活かすべきだと僕は思う。

 こんなところで人生の分岐点に立たされているかのような覚悟を決めるべきではないと思う。


「そうか……」


 それじゃあ仕方が無いと日笠さんはゆったりとクラウチングスタートを切るかのようなポーズを取り、こう言った。


「仕方ない」


 いよいよ実力行使に出るのだろうかと僕は思っていた。

 きっと瞬く間にボウリングのピンのように彼らを跳ね退けて行くのだろうと僕は思っていたんだ。


「私の背に乗れ斉藤!! 飛ぶぞ!!」


 ……?

 なんだか日常では使わない言葉が聞こえてきた気がした。





 



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