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日陰男と高嶺の花の恋愛ジジョウ  作者: ナナモヤグ
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大人と子供の狭間で僕らは

――


 さて、あらゆる交通機関が停止している深夜帯に遠藤さんと木下さんが僕の部屋にいるという状況で僕を含めた三人が一つ屋根の下で朝を迎えるにあたりどう過ごしたのかその過程を知りたいだろうか。

 いや、別に知ってもらう必要はなく問題定義されるような問題を起こしていないという事を僕なりに誰かに証明しておきたいだけかもしれないのだけれど、結論からいくと何もしていない。

 そう、僕の目の下にある隈と腰痛が物語っているとは思うのだけれど遠藤さんと木下さんがベッドで眠る中、僕はパソコンの椅子に座りデスクに突っ伏す形で眠ることにしたのである。

 ところが学校ならば難なくこなせるデスクでの居眠りも、自宅とならばこんなにも違いが出るのかというくらいに体勢が決まらず寝付くに寝付けない状況のまま朝の陽を拝むことになってしまった。

 木下さんは今日も大学に行くとのことで昨日は家に戻ることが出来なかったこともあり、起きてからすぐに支度を整えてから一度家に戻ろうとしたのだが、日笠さんが家まで送ってくれる手立てとなった――。



「というわけなのだけれど」


「一度に二人も連れ込むってお前……。一樹、こう言っちゃなんだがお前って女遊びとかするようなそういうキャラだっけ」


 学食で中華麺を啜りながら僕は要に今朝までの出来事を話すと、麻婆丼を食べていた要がジト目でスプーンをクイクイと動かしながら言った。

 お行儀が悪いよ要君、イケてるメンズがするような行為じゃないよ要君。


「今の話から僕が遊んでいるように聞こえたかい? ただただ巻き込まれているだけな気しかしないのだけれど」


「んなこと言ってるといつか遠藤さんに怒られるぞ。それにお前の本命は木下さんなんだろ? なのに遠藤さんが恋人なのかどうかわからないって……、曖昧な関係は余計なトラブルを起こすからやめておいた方がいいぜ」


「や、でもだよ? しっかりとした告白を受けたわけでもないし仮にも付き合うという形であるのなら然るべき受け答えがあったはずなんだよね」


 遠藤さんを貰うことになったものの、それは形として貰ったものでもないしましてや彼女の人権や所有権を有しているわけでもないのが実態である。

 そのことを要に告げると「あー」と間延びしたような声を漏らしながらガシガシと頭を掻いてこう言った。


「わかったわかった、一樹は意外とピュアなんだな。最近は告白をすっ飛ばして関係を結ぶのも珍しくないんだよ。それこそメールや文章のやり取りの中で気が付いたら付き合っていたっていうような事例もそう少なくないくらいにな」


 だからスプーンで人を指すのはやめたまえ。

 ビシッと意味もなく指されたスプーンを持つ要の手を叩いて僕は答えた。


「ピュアかどうかはさておくとして。その手の話は僕も耳に挟んだことくらいはあるけれど、それって要的にどう思うのさ」


 恋人が出来たんだと友達に報告しておいて実は違いましたっていうパターンも知っているだけに指先でスプーンを動かしている要にどうなんだと聞いた。


「俺? んー、別にいいと思うけどな。お互いに不満が無く経緯はどうであれそういう運びになったのなら問題はないだろ?」


 まるでそんなこと気にしていたのかとでも言わんばかりの回答であった。


「うーん……」


 要の話を聞くに、単に僕の考えが古いだけなのだろうか。

 いや、別に契約を結ぶとかそういう儀式的な事を言っているのではなく、こう――、意識と言うか覚悟のような物が必要なのではと思うのだ。


「ようするにさ、別に一樹は遠藤さんと付き合うってことに反対してるわけじゃないんだろ? じゃあ納得がいくようにお前から遠藤さんに告白すりゃあいいじゃん。いや……、もちろん木下さんのこともあるだろうけどよ」


「別に木下さんと遠藤さんのどちらが好きなのかとかそういう話じゃないのだけど……。ただ、自業自得といえばそうなんだけど流れに身を任せていた結果、既に外堀を埋められていたというか逃げ場が無くなってしまったような感じでね」


 そう、気が付いたらなんだか断りにくい状況になっていたのだ。

 まるで遠藤さんの領域ゾーンに迷いこんでしまったような。


「まぁ、確かにはっきりしないお前にも非はあっただろうし聞いた限り、多少強引な流れで納得がいかない部分もあるだろうけどよ、なんていうか付き合っているうちに気が付いたら相手の事を好きになるっていうパターンもあるからさ。ダメでもこんなことがあったんだぜって将来話せるネタにもなる」


「君は前向きだね。でもさ、好きでも無いのに告白するとか一昔前の罰ゲームみたいじゃないか」


「一樹が付き合うっていう意味に対してのイメージが固すぎんだよ。今時そこまで気にしている奴はそうそういないぞ。妥協って言葉は俺もあんまり好きじゃないけどさ、好意を寄せて来てくれてるっていうなら相手を思いやることも一つの愛情表現だろ?」


「愛がない愛情表現というのも不思議なものだね」


 そう言い終えてから僕は伸びかけた中華麺を再び啜る。

 席に着いたときにはまだ湯気が立つほどに熱かったスープも常温程度まで冷めてしまっていた。


「まぁあれだ。世の中さ、優しさも愛も作れるからな」


 遠い目をしてスプーンを弄り倒す要はどこか遠い目をしながらそう漏らした。

 過去に何かあったのだろうか。

 なんだか要がダークサイドに落ちているような、これから要の話を聞いてやらないといけないような使命感が僕を襲うが面倒くさくなりそうなので見なかったことにしよう。


「そもそもさっきから俺たち好きだとか愛がある前提で話をしているけどさ、本当に好きだとか愛してるなんて付き合ってから抱く感情だと思わないか?」


「あぁうん、まぁ。それは確かに」


 告白の時に愛してます、付き合ってくださいとか逆に怖いよね。

 えっ、別にこっちは愛してないんですけどって断られたらごめんなさいと言われるよりも心が壊れそう。


「んー、色々考えたけどもう少し様子を見てみることにするよ。急ぐ話でもないし」


「そうか。まぁ、一樹がそう思うならそれでいいんじゃないか。案外そういうところがお前の味なのかもしれないしな。ただし、その頃には塀が塗り固められてその上に城が建ってるかもしれないから気をつけろよ? 」


 まだ日も浅いというのにそうなったら一夜城もいいところである。


「それは笑えない冗談だ」


 空いている席はないか学生たちが目を光らせている食堂にいつまでもだらだらと居座るわけにもいかずよいしょと席を立つ僕を見て、つられて要も食器を手に取り席を立ちあがった。

 するとここの席いいですかと、一回生らしき男子学生が声をかけてきたので「どうぞ」と短く答えて僕たちは食堂を後にした。

 

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