EP3
要に求めていた答えは今後、僕はどう上手く立ち回っていくべきなのかであって決して最終的な答えを求めていたわけではない。
僕が余程に納得していない表情をしていたのだろうか、要はぶんぶんと顔の前で手を振って口を開いた。
「いやいや、一樹。これはお前の為でもあるんだぜ。俺だって友達相手に適当なことを言っているわけじゃない」
どうやら先の件は要にも考えがあっての発言だったとのことらしい、てっきり見世物にでもしたいのかと僕は思っていたよ。
ボウリングの時だって僕を誘っていたけれど、あれって絶対必要な場面じゃ無かったよね。
あんなことをした要君が僕の為に言ってくれているというのだから信憑性にかけるというものだけど聞くだけ聞いてあげよう、友達だからね。
「聞こうじゃないか」
「まず、一樹ってどこに行くにしてもジャージじゃん?」
「うん」
なんだかいきなり出だしを挫かれたような気持になって思わず頷いてしまったけれど、満を持して何を言うかと思えば今さらのことである。
僕が入学式以降、ジャージ以外で大学に来た試しがあっただろうか。
「ほら、前に喫茶店に一緒にいた女の子たちもさ一樹の事褒めてたじゃん?」
無理やりカウンターに居座った時にいたあの二人か、と思い出す。
「あれを褒められていたと捉えるべきかどうかはさておき、彼女たちは僕の苦手なタイプだったと記憶しているよ」
意外な一面――、という点においては誰もが一度は持ち上げられて通る道なのではないだろうか。
ただ、人となりや素性を知られてしまうとそれすらも次第に悪影響へと変貌していくのだけれど。
「遠藤さんと付き合うことで一樹も一人の男として大事なものを見つけて成長出来るんじゃないかなって思ってさ。だってお前、遠藤さんと二人きりになってもお構いなくジャージで行動していたんだろ? 別にとやかく言うつもりはないけどさ、時と場合くらいは考えた方が良いと思うぜ」
「なんとなくだけれど、要の言いたいことは分かったよ」
ようするに女性と二人で、それもきちんと身嗜みを整えて来ている相手に対してジャージで一緒に行動するのはいかがなものかと要は僕に言いたいのである。
付け加えて遠藤さんの横にいることでそういった"人として当たり前"な部分を身に着けるべだと言いたいのだろう。
しかしながらその程度のことは、いくらジャージが至高だと口ぐちに漏らしている僕であったとしても理解しているつもりである。
少し前に遠藤さんから"つもりはつもり"と言われたけれど、ジャージで出歩くことが世間的にどう映るかくらいは判っているつもりなのだ。
だからこそ、僕があえて常にジャージで動くのには理由があるということを要には伝えておかなければならない。
もちろんのこと楽だというのが7割だけれど、残りの3割をね。
「ようするに身嗜みなり、人の対応において僕が男として欠落している部分を遠藤さんから教えて貰えって言いたいわけだろう?」
「まぁ大体そんな感じだな。なんだよ、てっきりその辺は疎いと思ってたんだが」
「別に、ただ僕は一般論を言っただけさ。それじゃあさ、次に僕はあえてこういうことをしていると言ったら要はどう答えるかな?」
これはあくまでも自分を肯定的にするための言い訳に過ぎないけれど、嘘は付いていない質問である。
特段、驚く様な様子を見せることなく、要は淡々とこの質問に答えてみせるのであった。
「え、何お前。遠藤さんのこと嫌いだったの?」
「え、好きでもないし嫌いでもないよ。ただ、他の人よりもどうするのが正解なのか見つけにくくて対応に困ってるだけ」
なんで僕が遠藤さんのことを気にしている前提で話が進んでいるのだろうか。
「一樹にしては珍しく木下さん以外の女の子と普通に話しているし、脈ありなのかなと思ってたんだけどな」
どうして僕が女の子と話すイコール脈があるに繋がってしまったんだい。
どうして木下さんは例外になっていたんだい?僕は勘違いされていたということよりも、そちらの方がよっぽど遺憾に思うよ。
「その線でいくと僕は木下さんの事の方がよっぽど気になっているのだけれどね。木下さんっていいよね。だからこそバイト先では世間体を気にして動いているのだけれど、木下さんって生憎と彼氏持ちなんだよね」
「まさか一樹の口からそんなに木下さんの名前が連呼されるとは思いもしなかったが、そりゃまぁなんていうか……ご愁傷様」
僕に向かって悪びれもなく手を合わせないでおくれ。
ただ僕としても確かに木下さんはいいなぁとは思うけれど、思うだけだ。
今日のバイトが終わった後に呼び出しをくらっているけれどバイト仲間、良くても友人ポジションで接していかなければならないだろう。
「ともかくそういうことでね、なんだかずいぶんと遠藤さんに目を付けられてはいるけれどさ。要は知らないかもしれないけれど、――遠藤さんって行動が読めない人だよ。だから対応に困っていてね」
一瞬、裏表が激しいと言おうとも思ったけれどそれは口にしないことにした。
彼女だって言われたくない、知られたくないことくらいはあるだろう。
実はいつもニコニコしているのは嘘の表情で、そこそこに変態で神出鬼没で、そして毒舌だってことは知られたくないだろう。
誰もがお近づきになりたくてもなれないような高嶺の花に少しだけ近い位置に踏み込んでしまった、知ってしまった僕としての役割はそれらを漏えいさせないことに限ると思う。
「あー、確かに。遠藤さんってどことなく話が続かなさそうな雰囲気出てるもんな。数人でようやく相手出来そうな感じがする。あぁ――、なるほど。だからいつもみんなこぞって行っているわけか」
「そんなところかな」
うん、まぁ。なんだか勝手に納得してしまっているけれど。
僕が言おうとしたのはそういうことではないのだけれど、もうそういうことにしておこう。
実際は思っていたよりも遠藤さんって放っておいても独りでに喋ってくれるからそこじゃあないのだけれど、この際良しとしよう。
そうして、うんうんと隣で勝手に納得している要を余所に講義の始まりを告げるチャイムが鳴り、結局何も要からは得られる物がないままバイトに行く時間を迎えるのであった。




