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日陰男と高嶺の花の恋愛ジジョウ  作者: ナナモヤグ
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EP2

 

 やはり遠藤晴香という存在は、当大学において知らない人はいないのかもしれない。

 そう思ったのは大学に近づくにつれて誰もが振り返り、そして男となれば一人、二人、また一人と何故か次々に集まってくるからだ。

 今現在確認出来るだけでも8人は集っていた。

 遠藤さんから何を得られるのかは知る由もないけれど、それらを巣に持ち帰り遠藤晴香という素晴らしさの噂を広め次は人数を増やしてやってくる。

 一人ずつ増える度にゴキブリ駆除薬をイメージしてしまう僕はいけない子かもしれない。

 しかしながら彼らの活躍もあって、僕は自然と遠藤さんから離れた道路の端に追いやられることに成功しているのだからここは感謝しておくべきである。


「また妙な行動を……、朝から一体何に向かって手を合わせているんだ?」


 届くはずもない感謝の意を表していると後ろから声を掛けられた。

 顔を確認せずに声だけでもわかってしまうのは悲しいことだけれど、僕に話しかけてくる物好きな男という時点で要を除いて他にはいないだろう。


「やぁ、要君」


「おう。凄い群がってるな、あそこ」


 軽く朝の挨拶を交わしてから要は既に姿が見えなくなってしまった遠藤さんがいるであろう所に指を指した。


「君がいなかったせいで、さっきまで僕もあの近辺にいる羽目になったのだけれどね」


「は? なんで一樹が?」


 必要とする時におらず、今さらになって現れた要には僕の苦労話を聞いてもらうとしよう。


 2限目の講義がある教室で学生証を出席管理の機械に翳し、席に着くころには一通りのいきさつを語り終えていた。

 そう、テニスが終わったあの後から遠藤さんの家に呼ばれたこと、そして今朝の出来事に至るまでの経緯を語ってやったのだ。

 全てを聞き終えた要は、「自慢か?」と茶かしてくるがそんなつもりは毛頭ない。


「それもこれも全部君が悪いんだ」


「俺が蒔いてやった種がようやく花を咲かそうとしてきてるんじゃないか?そっか、一樹にようやく春が来たんだな」


 ええい、そんな鬱陶しい泣き真似をするのはやめたまえ。

 そんなにも僕が氷河期に突入していたように見えたのかい。

 恋人を作りたいけど作れないのと、作りたくないから作らないとは全然意味合いが違ってくるのだよ。

 つまり僕は後者であるが故に氷河期にいたのではなく、あえてコールドスリープ状態にあるのだと言ってほしいね。


「ねぇ要君や。此度の件で僕は君に一切感謝なんてしていないのだけれど? むしろ迷惑料を貰ってもいいんじゃないかな」

 

「何言ってんだよ、それなら経営学論のレポートを渡してやっただろ? いいじゃん、一樹から聞く限りじゃあ遠藤さんも満更じゃあないんだろ? お試しでもいいから一回付き合ってみろよ、結婚するわけじゃないんだから。ほら、良くやらないよりやってから後悔する方がいいって言うしさ」


 大学生活は最低でも4年間もあるのだ、もしかしたらどこかで遠藤さんの存在を知ることになるかもしれない。

 だけれど、要からの一件で僕は良くも悪くも遠藤晴香という存在に出会ってしまい、早熟にも知ってしまったのである。言っていることのどこまでが冗談か分からず、存在までもが冗談に見えてしまう彼女を。


「やってから取り返しの付かないこともあると思うよ」


 そんな彼女に手を出すなんて真似が出来ようものか。

 いつかは僕も彼女の冗談を受け流し切れずに切り倒されることになるじゃないだろうか。

 彼女から向けられている"好意"の意味の判断を取り違える訳にはいかないのだ。

 もう既に片足を棺桶に突っこんでしまった気分ではあるけれど、ほどほどの付き合い程度に留めておかなければ痛い目を見るに違いない。

 それが他人を観察し、分析することが趣味ともいえる僕だからこそ導き出した答えなのである。


「一樹、またつまらないことを考えていただろ?」


「失敬な、何を根拠に」


「お前の目が虚ろになっていたら、そういう事を考えている証拠だ」


「わかったわかった。そこまで言うならせっかくだから要にも意見を聞こうじゃないか」


「あれ、俺の話聞いてた?」


 もちろん、聞いていたともさ。

 

「昔、もっと勉強や運動を頑張っておけば良かったって良く聞くことはない?」


「ん、まぁ大人ってか先生からは良く聞く言葉だよな。そういやインターンシップでももっと資格を取っておけば良かったと担当してくれていた人も言ってたな」


 その手の話は僕も良く聞いたものである。

 俺が、私が後悔しているんだからお前たち子供も後悔するはずだってね。


「もちろん、大人だけじゃなくて僕たち学生にも当てはまることなのだけれどね。例えばもっといい大学に行けていたとか、もっと部活動を頑張っていればとか、ね」


「まぁ……、うん。それで、それがどうしたんだ?」


 きっと思い当たるところがあったのだろう。

 要は少しだけ声を詰まらせながら答えた。


「それじゃあ続いてまたまた例えばの話なのだけれど、今の知識を持ったまま望んだ過去に戻れるとしたらその時に頑張らなかったような人が再び時間が戻ったからといって頑張ることが出来ると思うかい?」


「そりゃあ、戻りたいと願うくらいには後悔してるんだから頑張れるんじゃないか?」


「うんうん。要君はそう思うわけだけれど僕はね、戻りたいと思っている人ほど何もしないと思うんだよね」


「そうか? そもそもやり直したいと思うのは人の性であって、誰にでもあることだろ?」


「確かに誰でも思う事だよね。僕だって昨日、スーパーが特売日だったということを忘れてしまっていてさ。一本40円も高い牛乳を今日買う羽目になってしまってね、あぁ昨日に戻りたいなぁと今でも思うんだ」


「あれ? 時間を超えるような話題だったはずなんだけど、これってそういうスケールの小さい話だったか?」


 小さくは無いだろう、僕の3分近くの時給が失われたんだぞ。

 ようするにインスタントラーメンにお湯を入れてから出来上がるまでの間に40円稼ぐことが出来るってことだぞ。

 これが遊びにお金を使う人との金銭感覚の違いなのか。


「まぁ、ようするにさ。まぁいいかと割り切れず、ただただ過去に資格なり勉強なりしておけば良かったなんて言ってくる人にさ、でも今してないじゃん?って言いたいわけだよ。もちろん、ルートの分岐上で必要なくなったという人もいるとは思うけれど、結果的に後悔しているのならじゃあ今から取ればいいじゃないってね」


「ようするに過去に戻ったところで同じことを繰り返すだけと言いたいわけか」


「そういうことだね。だから僕はこれから後悔をしない選択をするためにどうすればいいか意見を教えてくれたまえ。あの時、要に相談しておけば良かったと後悔しないためにもね!!」


 きっと交友関係の広い要であれば、こういう対人関係における問題は得意だろう。

 さて、君はどういうアドバイスを僕にくれるんだい? さぁ、是非ともご教授願おうか。


「ん? 遠藤さんと付き合えばいいんじゃない?」


「あれ、僕の話聞いてた?」


 

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