表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
日陰男と高嶺の花の恋愛ジジョウ  作者: ナナモヤグ
63/87

EP1


 きちゃったからには仕方が無いとは思うのだけれど、僕なりの持論としては相当に気があるとみていいだろう。

 いや、なんだか少し前から随分と痛いくらいに自意識過剰になっちゃっているかもしれないのだけれど、だけれどである。これは間違いないといっていいんじゃないかな。

 好意が無い一人暮らしの相手の部屋に朝からアポなしで訪ねるなんて真似はしないだろう。

 だけれど、残念なことに生憎と僕にはその気がない。

 いや正確には全く無いというわけではないのだけれど、今となっては不釣り合いだとかそんな鈍感ラブコメ主人公的なことも言うつもりはないのだけれど、現時点における僕には必要がないのである。

 嬉々として異性との関係を築かなくても充分にこの大学生活を満足しきってしまっているのだ。

 決して、気後れしているとか周囲からの目がーとかそんなチープな理由ではないのだ。


 兎にも角にも――そうそう、そういえば豆知識だけれど兎にも角にもって当て字らしい。


「斉藤君、上げてもらえると嬉しいのだけれど」


 置かれている現実からなんとかして打開しようとあれやこれやと考え、脱線し始めようとしているところで、一番に避けようと思っていた事柄を先に遠藤さんが口にしてしまった。

 『来るなら来るって言えよなー、今日は掃除してないから無理だぜ』なんて気軽に言えたらいいのだけれど、先日遠藤家を訪ねることになった時に思ったのだが随分と離れた所から彼女は通学していたのである。

 おそらくは姿が見えない日笠さんに送って貰っているとは思うのだけれど、もしこれが仮に電車やバスなどの交通機関を駆使して出てきたと思うと、ここで追い返してしまうという選択をするのは人としてどうだろうか。

 だがしかし、『じゃあ上がってく?』なんてそんな軽々しく同級生の、しかも異性を上げるのもどうかと思う。

 数秒間というしばしの間を開けた結果、僕は口にした。


「あ、どうぞ」


 出来ることなら僕の考えていることが彼女にそのままテレパシーか何かで伝わってはくれないものだろうか。

 どうだい、言われるがままに扉を押しあけて招き入れようとしているこの様は。情けないことこの上ないだろう?

 定期的に掃除はしているつもりだから部屋の清潔を個人的には保っているつもりではあるのだけれど、両親からは掃除しろとよく言われ、要にはいつきても片付いていると言われる。

 どちらの意見を信じれば正しいのかは判らないけれど、親と言うものはいくら片づけていても子には片づけろと言いたいのかもしれない。

 

「それじゃあお邪魔します」


 サンダルを脱ぎ、僕の後をついてくるように素足でワンルームへと続く廊下を遠藤さんが歩く。

 ヒタヒタと音が聞こえる度にスリッパなんて気の利いた物が無くて申し訳ない気持ちになる。

 何故この家にはスリッパがないのか、まさかスリッパが無いだけでこんな気持ちに陥ることになろうとは。

 そんなことを微塵も考えたことがなかった僕にとって今後の早急に改善すべき事項であるとして脳裏にしかと刻むことになった。


「コーヒーの香りがするわね」


 やはり、他人の部屋というのは気になるものなのだろうか。

 廊下と呼べるほどの長さではない通路を抜けて、僕の居住スペースに入った遠藤さんは辺りを見回しながらそう言った。


「喫茶店でバイトするくらいには好きだからね。そこにコーヒーメーカーも置いてあるだろう。今はインスタントしかないけれど、それでも良ければ飲むかい」


 万年インスタントなのだけれども、少々の背伸びをして見栄を張っておこう。


「それじゃあせっかくだから頂こうかしら」


「そこの椅子にでもかけなよ。あまり人を入れるつもりは無かったから座れるところがそこしかなくてね」


「ええ、ありがとう」


 ずっと立たせているのも気が引けるからいつも僕が座っているパソコン用の椅子へと遠藤さんを誘導した。僕が座るところは……、まぁベッドにでも座ればいいだろう。

 目隠ししても使えるんじゃないだろうかと思うくらいには使い込んだコーヒーメーカーを手慣れた手つきでセットし、ベッドへと移動する。

 そして、申し訳ないことにスリッパが無い為に遠藤さんの素足が目に映る。

 足、寒くはないだろうか。


「気にしなくても大丈夫よ、好きでサンダルを履くくらいには冷え性ではないわ」


「君はエスパーか何かかい」


「そんなに私の足を見られると、言わなくても分かるわよ。それとも斉藤君は足フェチだったのかしら」


 そう言って彼女はチラチラとあえて僕の目線に入るように足を振ってみせる。


「断じて僕はそんな特殊な性癖は持っていない」


 あざとさフェチなのかもしれないというのはこの前に感づいてしまったけれど、まだ感づいていないだけかもしれないけれど他にもと呼べるほどの特殊な性癖は持っていないはずである。そうであると願いたい。


「ところで遠藤さん。話を戻すけれど、どうしてこんなに朝早くからうちに来たんだい」


 何故僕の家を知っているのかはもはや聞くまい。


「貴方に会いたかったから、といったら信じてもらえるかしら?」


 くるくると椅子で回りながら遠藤さんは不敵に笑う。


「遠藤さんの機嫌が良さそうで何よりだよ」


 どうやら遠藤さんにちゃんとした回答を望むのも間違っていたようである。

 さて、ここからどうやって二人きりで時間を過ごせばいいのか出来ることなら是非とも要君にご教示願いたいものである。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ