高嶺の花の恋愛ジジョウ
――やってしまった。
とうとうやってしまった。
私は斉藤君が帰宅後に着替えることもなくベッドへとダイブして枕に顔を埋めていた。
色々と取り返しがつかないことを言ってしまったけれど、最終的にはいい方向に動いてくれて本当に良かったと今になって心底思う。
私をあげるわ。
何を言っているんだろうか、とうとう頭が沸いてしまったのかと思った。
それを受けた斉藤君もいらないとばかりの塩対応でとても焦ったことを思い返す。
「……死にたい」
恥ずかしくて、……恥ずかしくて死にそうである。
さらにはあろうことか、互いに顔を至近距離に寄せてしまってそのまま離れるにも離れられず5分近く話していたのだから正気の沙汰ではない。
きっと私の顔は赤く染まっていただろう、それを見られなかっただけでも吉とするべきか……。
そして微動だにしない斉藤君のメンタルは底なしなのかと疑ったものである。
どうにも私は彼を前にするとしなくてもいいことまでしてしまう程に舞い上がってしまうようだ。
これが恋なのかと問われれば応答には困るのだけれど、少なくとも彼に対しての興味と好奇心は今までに感じたことがないものがあった。
顔が好みなわけでもなく、かといって性格が好きなのかというわけでもない。
ただ、彼の瞳はとてもきれいだった。
ただただ、余計な感情の一切を捨てて私を全体像で映してくれる彼の瞳がきれいだったのだ。
きっと私に対する彼の印象は良くないだろう。
けれど、今後も彼の瞳に私を映して欲しいと願う。
彼に好意的に、心を開いてもらうにはまずはこのつっけんどんな性格を直さなくてはならない。
高飛車と言われても仕方がないのが現状であることぐらい、私にだってわかるのだ。
「分かってるんだけど……」
分かってるんだけど、すぐに頭がパンクして言わなくても良い挑発をしてしまうのだ。
「……死にたい」
改めて呟く。
これまで異性に対してこんなに悩んだことが無かったことがあだとなってしまった。
それでもこれからは、斉藤君と私は特別な関係になったのである。
そう思うと頬が緩んでしまう。
これから何をして斉藤君と過ごそうか考えるだけでも楽しみで仕方が無いというものだ。
枕を抱いてベッドの中を行ったり来たり転がっているが、こんな姿を彼に見られたらきっと私は死んでしまうに違いない。
斉藤君が最後に微笑んでくれたあの言葉。
"そんな顔も出来るんじゃないか"
あの時どんな表情をしていたのか、自分ではわからないけれどまずは斉藤君に気に入ってもらえるようにこの性格を修正していこうと思う。
そして、その先にもし――彼とそういう関係になることがあるのなら、良いのかもしれない。
今の私には欠落している部分がある。
それはこれまで愛想を振りまけば付いてくるのとは違うタイプである彼を前にしてまざまざと思い知らされた。
ベッドの横に置いていたファンタジー物のライトノベルを開くと、ある一行に"攻略"という文字。
そうだ、私は斉藤君を攻略してみせよう。
まずは唐変木な彼を振り向かせるところから始めようと思ったのだった。




