EP8
「ええ、そうよお父様。斉藤君と私はあんなことやこんなことをした仲なのよ」
「なんてことだ……」
自分の親父が狼狽えている様子を見て遠藤さんはまるで畳み掛けるかのように繰り返す。
これが親子として正しい姿なのかは今の僕にはわからないけれど、少なくともまともな家庭環境ではないのだろうと思い、まるで憐れむかのようないたたまれない気持ちをそっと胸の内に仕舞い込むことにした。
ところで何故、無駄に挑発的な態度で親父に覆いかぶさる遠藤さんと、娘に追い詰められて焦燥感がにじみ出ているおっさんのコントに、――何故僕は居合わせているのだろうか。
というよりも、ここに居る必要がはたしてあったのだろうか。
仮にも親の前で堂々とあんなことやこんなことをしたと公言する娘がいるだろうか、否――僕の人生の中でそんな良い性格をした人物はいないはずである。
あと、あんなことやこんなことをした記憶は断じて持ち合わせていない。
「それに今度は大多数での参加をすることになっているわ。ねぇ斉藤君?」
話の流れから「あぁ、ライブのことか」と僕は即座に察したがそこで主語を抜く意味がわからない。
しいて言うなれば、この状況下で遠藤さんがこの後どのような展開を望んでいるのかが僕にはわからないから返事はしない。
きっと見守ることがここでの正義に違いないと僕の第六感がそう言っている気がするんだ。
「大……多数……?」
ただ、きっとこの親父はお花畑を思い浮かべているに違いない。
僕のこの居辛さと切なさを感じ取っていただけないものだろうか。
「晴香。それは、何人くらいでの話なんだ?」
何故人数を聞くのだ遠藤父。
「そうね私を含めて……女4人、男2人くらいかしら」
どうやらしっかりと要もカウントされているらしい。
女4人ということは、あとは木下さんと日笠さんだろうか。
「――ッ!?男の人数が足りないではないか!!」
カッと目を見開いて遠藤父は頭を抱えた。
はたしてそういう問題なのだろうか。
「大丈夫よお父様。そこはちゃんとフェアにイクつもりだから」
まぁ、ライブに行くのに男も女も関係ないからね。
平等だよね、フェアだよね。
ただ、残念なことといえばイクのイントネーションだけ少しばかり、そう。少しばかり違っているような気がするのだけれど。
「そうか」
そうかそうか。
そうか。
この猥談な展開になってからというものの僕は一言も発してはいなかったけれど、聞いている限りでは何を持ってして遠藤父に納得して落ちが着いたのかが全く分からなかったよ。
よく蛙の子は蛙というけれど、確かに目の前の人物は遠藤父で間違いなさそうである。
揃いも揃って思考回路がぶっ飛んでいやがる。
「斉藤君、いつまで黙りこんでいるつもりなのかしら。面白くないわよ?」
「いや、遠藤さん。当初の目的から大きく離れているから口を閉ざしていただけなのだけれど。元より僕が入り込む余地なんて無かったよね?」
「あら、そうかしら?貴方にはツッコミの一つくらいは期待していたのだけれど。突っ込むだけに」
うーん、どうにもエロネタがお好みなのだろうか。
音声を録音して学園で売ったら高く売れるかもしれない。
「ねぇ、今失礼なことを考えていなかった?」
「うん、そうだね。遠藤さんそういう系の話をしている時があまりにも生き生きとしているものだから、好きなのかなとは思ったよ。うん、思わざるを得なかったよね」
思ったことは胸の内に仕舞いこむのではなく、面と向かって言うべきだよね。
「イキイキだなんて、斉藤君もやればできるじゃない」
ただ、なぜか満面の笑みで遠藤さんから褒められたのだけれど。




