EP3
「斉藤君のような唐変木な人が女の子の部屋に入れるなんて希少体験なのだから、もう少し素直に喜んでもいいのよ?」
そんなお高い遠藤さんの部屋に案内されるというものだから、確かに喜ぶ場面なのかもしれない。
かもしれないのだけれど、なんだかすごく蔑まれた気がする。一体彼女のなかで確立されている僕の個性というのはどのようなものなのだろうか。直接本人に聞いてみたいけれど、さらに鞭を打たれそうで僕は安全を取ってそのことについては返事をしないようにした。
彼女が言うように大半の男子はここでガッツポーズを決めるほどの出来事であるのかもしれないけれど、残念ながら僕は彼女に対してお熱になった覚えはないし、なる気もさらさら持ち合わせていないのだ。
「確かに僕はラッキーボーイなのかもしれないね」
ラッキーボーイ。
それは俗にいわゆる小説などで偶然風が吹いて女子生徒のスカートの中が見えたり、パンをかじりながら交差点で運命的な衝突したりとご都合に恵まれた少年のことである。
「なのかもしれないのではないわ。本当に、無関心なのね」
「無関心というわけではないけれど、これから先に待ち受けている出来事に戦々恐々としているだけさ」
いい年をした男女――つまるところ大学2回生の男が彼女でもない同級生の女の子の親に会うなんてそうあるシチュエーションではない。
一般家庭ですら親公認でもなければ余程のことがない限り出会うことがないだろう。
「そんなに身構える必要はないわ。お父様が直々にありがとうと伝えたいだけだと思うから」
「僕としては君からお礼の挨拶をもらうだけで充分だったんだけどね」
「あら、嬉しいことを言ってくれるわね。それはつまり、日頃から女運が無さそうな斉藤君は私が先日カフェに行ってお礼の挨拶をしただけで満足してしまったということでいいのかしら」
おかしい。
なぜか遠藤さんが僕にお礼を言ったことを僕が感謝しなければならないような言い回しである。
「や、うん。なんだか色々と間違えられているような気がするのだけれど、玄関で立ち往生しているのもあれだし早く遠藤さんの部屋に案内してもらえるかな」
遠藤さんの部屋に行くことに対する警戒心はいつの間にか消え去ってしまい、むしろ先ほどからちらちらとジャージ姿の僕を見てくるメイドさんたちの視線が僕の羞恥心を突き刺して来るものだから苦痛でしかたなかった。
そんな意味合いも込めて早く移動しようという意向を伝えた。
「そんなに早く私の部屋にいきたいなんて、随分と強引なのね」
物は言いようである。確かに僕の心情を伝えなかった悪さ加減はあるけれど――
「うん、そうだね」
――なんだろう今日の遠藤さん、すごく面倒くさい。




