出すぎた杭は打たれることとなる
寛いでいろと告げられて寛ぐように努力してみたものの、他所の車で羽を伸ばすことなんて大層なことは出来ず、延々とこのまま無言で気まずい空気が流れると思われた車内であったが、遠藤さんは然程この状況を気にしていない様子である。
チラリと隣に座る彼女を横目で見てみると、静かに目を瞑って姿勢正しく佇んでおり、太ももの上で繊細な手を重ねていた。
それを見た僕は今まで背もたれに背をしっかりと預けていたけれど、取るべき態度を間違えていると思い、すぐに腹筋に力をいれて静かに気が付かれないよう背もたれからそっと背を浮かしたのだった。
そしてこれまでまじまじと遠藤さんの素顔を直視したことがなかった僕は、ここに来て横顔ではあるけれど初めてその容貌を拝むこととなる。
肌は白く透き通っていて眉は細く鼻も高く、日本人にしても薄く――さすがにハーフとまでは言い難いけれどこうやって静かに静止している姿を見るとそもそもの作りが違うのだなと実感した。
あの騒動から一月と経っておらず、恩を感じているだけなのか……、はたまたその先に何かの発展を望んでいるのか、今の僕には正確な理由と目的が定かではないけれど、随分と物好きなお嬢様である。
こんな状況を親衛隊に見られようものなら明日の陽を拝むことは出来ないのだろうなと想像した僕は、目を瞑るお嬢様の横で小さく苦笑いする。
「随分と私を観察してくれていたようだけれど、何か分かったことでもあったのかしら」
すると先ほどまでの僕の行動が実は見られていたらしく、遠藤さんが肘を当てていつの間にか足を組みながら僕に向かってほくそ笑みながら遠藤さんは言った。
やっぱり起きているとややこしいなこの人。
「あぁ、ごめん。こうして遠藤さんを見るのは初めてだなと思ってさ」
「そう?見たければいくらでも見なさい」
「いや、別にそういう意味じゃないのだけれど……」
何を言っているんだろうかこの人は。
それに見ろと言われて直視出来るほど僕は肝が据わった人間ではない。
遠藤さんの言葉の後、僕は横目で見ることすら出来なくなってしまっていた。
自ら気まずい空間を作り出してしまい、長い車旅であったがどうやら目的の場所に着いたらしくゆっくりとバックしていることが車の動力から伝わってきた。
カーテンで外が見えないけれど一体どこまで連れてこられたのだろうか。
自動で後部座席のドアが開き外の明かりが隙間から差し込んでくる。
「着いたぞ、斉藤」
そして先ほどまで運転をしてくれていた日笠さんが開きかけのドアをグッと全開まで引いて僕は外に足を着いた。
あくまでも客だからなのか、お嬢様である遠藤さんよりも先に僕を優先して下すようである。
外に出てみるとどこかの庭園だろうか、大きな噴水やさまざまな花壇、そして一際存在感を放つ日本文化とはかけ離れた大きな屋敷が飛び込んできた。
「……どこですか、ここ」
いや、聞かなくてもわかる。
きっとここは遠藤さんの家なのだろう。
ここがどこかなんて聞く前に聞くべきことが山ほどあるはずなのだが、この壮大な光景に思わず言葉を失ってしまった。
「察しはついているようだけれど、私の家よ」
僕の後に車を下車してきた遠藤さんが僕の問いに答えた。
「ですよね」
こんな豪邸にメーカー不詳のジャージ姿で来てしまった僕はあまりの場違いさに思わず気後れしてしまう。
くそう、こんなことになるのならせめてうちにある一番高いブランド物のジャージを着てくるべきだったと今のジャージの袖を引っ張りながら後悔し、やはり何が起こるか予測が付かないこの世界では、もう少し世間体を気にすることを大事にすべきだと痛感した。
「おかえりなさいませ、お嬢様」
自己嫌悪に浸っていると、一人の女性の声がだんだんと近づいてくるのが分かった。
声がするほうに目を向けてみると、メイド服を身に纏った女性が映った。
テレビや雑誌、情報メディアでしかお目にかかったことが無いメイドを実際に目の当たりにしてしまい、思わずかけている僕のメガネもずれてしまう。
店で働くメイドではなく、屋敷に仕える本物のメイドである。
しかし執事の日笠さんがいるのだから、居て当然かとあまりの規格外な出来事に驚きはしたものの平常心を心掛けて困惑した脳に大丈夫だと言い聞かせる。
「ええ、ただいま。こちらの方が斉藤さんよ。丁重に持てなしてあげて」
「畏まりました」
遠藤さんの言葉に一礼をしてからスケールの大きさに呆けていた僕の方にメイドは歩み寄ってくる。




