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日陰男と高嶺の花の恋愛ジジョウ  作者: ナナモヤグ
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EP2

 さすがに自分の知り合いが不正をしていると疑いを掛けられれば耐えられなかったのか、すっくと要は立ち上がり先の台詞を大きく吐いてみせたのだが、フェンスの外にいるテニス部員たちは唐突の事にぽかんとし、ひと時の静寂が訪れた。

 それもそのはず、遠藤さんの観戦をしにきたと思われていた三人の内の一人が急に怒り出したのだから何が起きたのか理解が追いつかないのかもしれない。


「おい要、余計なことは言わなくていい」


「何言ってんだよ修ちゃんっ!馬鹿にされて悔しくないのかよ!」


 静寂を破るように大きな巨体をゆらりと揺らしながらこちらへ向かいつつ修ちゃんは要に言った。

 しかし修ちゃんは周りから言われている事を受け入れているのか流しているのか定かではないが、要を宥めるように言うものだから要は再び熱くなってしまう。


「別に俺と島根は伝手で組んでいるわけではないことを要のように分かってくれる人がいれば俺は充分だ」


「大学から始めた修ちゃんに負けたっていう事実が悔しいから言ってんだろ?後ろにいた島根先輩のおかげむぐっ!?――っぷは!なにすんだよ一樹」


 はー。本当、君はヒートアップしやすい主人公だね要君。

 言っていい事と悪いことくらいはしっかりと見極めてから発言すべきだと思うのだがね。


「へいへい要君。頭に血ィ上り過ぎて柄にも無い事言おうとしてたよね。そういうのって良くないと思うけれど?」


 皆まで言わずとも君の言いたい事くらいは分かるさ。きっと僕たちの後ろにいるフェンス越しの部員たちも口に出さずとも理解していることだろう。

 だからこそ要が口に出す必要はないし、それは修ちゃんの送ってきた部活生活が台無しにすることへと繋がってしまうような気がした、だから僕は要の閉まらぬ口を押さえて止めに入ったのだった。


「要の友達――あー、斉藤と言ったか。サンキュウな」


「あぁ、いえ」


 あー、咄嗟に起こした行動だったため出来ればもっと気の効いた返事を修ちゃんにしたかったけれど、初対面の先輩ってどう接したら良いのさ。


「なぁ一樹。一樹だって分かってるんだろ?」


「分かっているって何がさ。残念ながら僕は勝手に激高している要君の気持ちを汲み取ることは出来ないと思うよ」


「くっ!!」


 そう悔しそうな顔をしなさんな。

 こうやって怒りのベクトルを僕に変えていけばおのずと意識する対象を変えられることだろうし、後でちゃんと謝るからさ。

 僕に対して普段からあまり強く言ってこない要は思ったとおり言葉をかみ殺して俯いた。


「サンキュウな。要」


 そんな要の肩にポンと手をあてて修ちゃんは声をかけ、これで終わったかと思ったのだったが周りの部員たちがそれを許してはくれなかった。

 なんだよぅ、このまま良い感じで終わらせてくれてもいいじゃないか。


「この際だから言ってやるぜ!!島根はシングルスでこそ輝く選手なんだよ!多少前衛の仕事が出来てもラリーが苦手な中瀬がいると迷惑なんだよ!!」


「先輩!もっと言ってやってください!!」


「そうだそうだ!」


 ここぞとばかりに野次馬魂に火がついてしまったのかフェンスの外で大炎上が起こってしまった。

 あぁもう、こういうことにならないよう止めに入ったというのに結果として意味が無かったじゃないか。見てみなよ修ちゃんの顔を抑えてアチャーとする表情を。


「てめぇら好き勝手いいやがって……っ!!」


「だーから、落ち着きなさいって要君。君はどうして今日に限ってそう沸点が低いのさ、僕が弄られている時はなんだかんだで流してくるくせにさ」


「俺は単に努力した人が認められない事実が気に食わないだけだ」


「その定義だと僕が努力してない人みたいになるのだけれど、……いや、うん。間違ってないけれど……」


 間違ってないけれど、なんだかちょっぴり心に突き刺さるものがあるぞい要君。


「お、おい。斉藤は頑張ってないのか?ソフトテニスで強かったんだろ?お前まで落ち込むなって、な?」


 ポンポンと大きな手で慰めてくれる修ちゃんの溢れんばかりの心遣いが温かい、僕の心に染み渡るよ。

 でも修ちゃん、頑張ってないのか?と聞かれて「はいそうです」と答える人はいないと思うんだ。


「ほぅ、橋爪は知っていたがその連れもソフトテニスは出来るのか」


 罵声や妬みが飛び交う中、男の良い声が透き通って耳に届いてくるのでそちらに視線を合わせると声の主は修ちゃんの後衛を務めていた渦中の部長、島根さんであった。


「……おい、島根!お前まさか」


 カッと目を見開いて島根さんを見る修ちゃん。何かあったのだろうか。


「あぁ。橋爪も納得がいかないようだし、そろそろ俺もこの部活での立ち位置をみんなに理解してもらいたいと思っていたところだ。ちょうどいい、橋爪。その友達と組んで試合をしてみないか」


「試合、ですか」


「そうだ。うちの反対派で一番強いペアと橋爪とその友人君との対決だ。もし橋爪が負けたら俺と中瀬は今後ペアを組まないと約束しよう!!」


 いやいやいや、なに意気っちゃってんすかね。何言っちゃってんすかねこの人、アホなんですかね。パーマは頭の悪さをカモフラージュするためだったんですかね、クルクルパーとはこのことなんですかね。

 ソフトテニスだけをやってきた僕たちに硬式テニス経験者、それも強豪校の中で練習してきている人たちと戦えだなんて無茶があるにも程があるってものだ。

 それをこの人は理解していてなお、自分たちを賭けると調子に乗って言った意味がさっぱり僕には理解できないよ。


「はっ、それは分かりやすくていいですね。硬式テニスの経験が浅い俺たちに負けちゃあ文句も言えないからな!!」


 グッと握りこぶしを作って熱くバトルを予兆させるように煽る要。

 いやいやいや、何言っちゃってんの要君。……あぁ、くそう!!君もアホゥの子だったってこと、あまりにも大アホゥが現れたものだからすっかり忘れていたよ!!


「~~~ッ!!」


 顔を抑えてダメだこいつらと落ち込んでいると、改めて修ちゃんが背中を優しく叩いてくれた。

 僕の味方は貴方だけだよ、修ちゃん……。





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