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日陰男と高嶺の花の恋愛ジジョウ  作者: ナナモヤグ
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EP3

 駅前から歩く事、数分。

 独特というかソレが何の建物であるかが一目で判るようにトレードマークの白色を基調としたピンの模型がそびえ立つ施設へと我々一同は到着する。

 かなり遠まわしな言い方をしたけれど、ここはただのボーリング場。

 順々に入り口である自動ドアを潜れば既に先客達が投げているのであろう、心地の良いピンとボールが弾け合う音が聞こえてくる場所である。


「私、ボウリングって久々だなぁ」


「私もー。カラオケなら良く行くんだけど、ボウリングってあまりしないよねー」


 木下さんが知り合いだろう女子と会話していた。

 特にこれといって盗み聞くつもりはなかったのだが、僕と話す人間が周りにいない以上嫌でも聞こえてくるので許して欲しい。決して盗聴ではないことを主張したい。

 何か自分と共通する話題じゃないだろうかとつい聞き耳を立ててしまうんだよね。


「絶対、津田さんってボウリング上手だよね」


「あー、わかるー!運動とか得意そうだよね!」


 うーん、実に友達らしい会話である。

 しかし同時に感じの悪い、云わゆる僕に向けられる視線と同じく話題の対象アテにされる内容も聞こえてくるわけで


「遠藤さんのところ、また男子が集まってるよー」


「ほんと、何してるんだろうね。遠藤さんの為の集まりじゃないのにさ」


 こうおっしゃられるのは特に要と話すこともなく、女子同士のみで楽しんでいる数名のグループであった。

 うん、確かに。ソレ、わかる。

 僕は気持ちだけ会話に混ざってみた。

 純粋に遊びに来て、純粋に打ち合わせをしにきた彼女達に取ってみれば面白くない状況なのかもしれない。

 しかしその話題の渦中にある遠藤さんだけれど、360度全方位をイケてるメンズに囲まれていて全く姿が見えないのだ。ファランクスかなにかかな。

 少しスカートの端が見えたり見えなかったりするくらいで、そこにはいるようであるが僕はここに来るまで一度もお目に掛かれずにいた。


 ディフェンス堅すぎない?バスケかな?

 

「橋爪君の知り合いって人もなんかパッとしないし、完全寝起きじゃんアレ」


 ぼーっと、何かの拍子に遠藤さんがチラリと見えたりしないだろうかと守りに徹する男達を眺めていると、小さな会話をまたしても僕の耳が拾った。

 どうやら今度の矛先は僕のようだ。

 しかし、ここで大切なのは聞こえていても決して振り向かない事である。

 ここで振り向くと「聞かれた!」と思って彼女達はおそらく目を逸らし、更には「何アイツ」と何故かこちらが悪いような扱いになってしまうからだ。

 そう、つまりここはひたすら聞こえているが聞こえていないフリをすることが最重要なのである。

 安心したまえよ。

 僕は、たとえとがめられようとも君達の輪を壊すようなヘマはしないさ。


 元々が部外者だからね!


「それじゃ、橋爪君のお友達も入れて計16人。4人1組に分けるんで、これから順にクジを引いていってくださーい!」


 施設から借りてきたのか、パーティ用のクジの箱を両手に持った津田さんが渦巻く思念を散布するかのように割って入った。

 当然これから行われるイベントの始まりであるのだから、全員が津田さんに注目した。


「晴香さん!!見ててくださいね!!」


「あ、てめぇ!!抜け駆けすんじゃねぇぞ!?」


 一人の男子が真っ先に津田さんの下へと向かうと同時に、我先にとクジを引くために遠藤さんからイケてるメンズ達が離れていく。

 そのポジション存外に安いのね。

 おかげ様で、どうやらイケてない僕はここにきて初めてうちの大学のミスコン受賞者、遠藤さんを拝む事が出来るようである。

 一人、また一人とガードされていた壁(男子)が離れていく。

 僕にとっては、特別に待ち遠しいというわけではないはずなのだけれど、その間は何故かスローモーションに感じた。

 僕は心のどこかで何かに期待しているのだろうか?

 そんな淡い想いとは裏腹に、その噂とされた姿を拝見することになるのだが、僕が想定していたよりも大きく印象が違っていた。


「ほぉー……」


 一目見て、思わず感嘆とした声を漏らしてしまった。

 どこかのお嬢様を彷彿させるような、染めずの腰まで掛かる長い髪に水色を基調としたワンピース、白いサンダルを履き、少し季節がずれている様にも思うが一切それを感じさせない雰囲気を放っていた。

 何より顔は確かに、頷く物がある。

 パーツが良いと言えば失礼にあたるかもしれないけれど、余計な物が一切ない端整な顔立ちだ。

 まぁでも、そこまではある程度想定していた通り……、いや想像よりも遥かに上回っていたのだけれど問題はない。

 問題があるとすれば、あの貼り付けたような笑顔の瞳が一切笑っていない事である。

 演じているのだろうか。

 ぼーっと手を男子達に振りながら見送っている遠藤さんを観察していると、こちらの視線に気がついたのか遠藤さんがこちらを向いた。

 仕方が無い、ここでも僕の第二対処術セカンドウェポンを発動しようと思う。

 こういった意図せず目が合ってしまった時、目を見開いた時点で、顔を逸らした時点でこちらの負けなのである。

 だから僕はぼーっと遠藤さんを見るのをあえて辞めない。

「オッ」とか「アッ」とか思っても、半目でぼーっとしている情け無い表情を決して辞めてはいけないのである。

 別に貴方を見ているんじゃないですよと、あくまでも気だるそうに、興味がないように演じることが大切なのだ。


 「こっちを見ているけれど私を見ているわけじゃないのね」と思わせるのである。


 しかしこの手の方法は既に開拓済みなのであろうか、遠藤さんは僕に向かって小さく微笑んだ。

 いや、参ったなぁ。手ごわいじゃあないか。

 これは、じろじろと私を見てくる静かな男子くらい思われても仕方が無い。


「どうだ一樹?彼女を初めて見た感想は」


 あー、やっちゃったなぁと思いながらも、降参の意味も込めて遠藤さんへ軽く会釈えしゃくを返していると要から声が掛かった。


「まぁ、"想像以上"だったかな。色々と、ね」


「だろ?一樹でもそう思うんだから普通の男子は放っておかないよなぁ」


 うんうんと一人頷いていた。

 いや、さっきのはそういう意味ではないのだけれど、要君や。

 かく言う君もあまり遠藤さんに興味を持っていないじゃないか。


「んー、興味はあるけど、あんだけ男が群がっている所へは行きたくないな」


 僕もジト目で要に言い渡したのであるが返ってきたのは、それなりに納得できる回答であった。

 うーん、わからなくもない。


「はいはーい、次そこのお二人の番だよー」


 話題性としては下賎な内容でいまいち盛り上がりに欠ける僕と要の間に津田さんがクジの箱を持ってやってきた。


「どうも、初めまして」


 とりあえずいきなり手を箱に突っ込むような真似はせずに挨拶から入ろうと僕は軽く声を交わす。


「お?いやはやこれはこれは、ご丁寧に。私は今回幹事をやらせて貰っている津田美紀っていうんだ。よろしくね、えっと」


「斉藤です」


「斉藤さんか、うん。よろしくね!」


 実に好印象な女性である。

 いいじゃない、津田さん。


「んじゃまぁ、先に一樹が引けよ」


 まさかの女性優先レディファーストならぬ男性優先ファーストハズバンド、素直に友情として受止めておこう。


「ん?あ、そう……?それじゃあ、お先に」


 中が見えないように返しのついた箱に右腕をつっこむと、既に16枚あったはず券は半分以上なくなっているようで4、5枚がコロコロと手に当たるのが分かった。

 少なくとも僕が要や木下さんと一緒になれる確率は大幅に下がっているようだ。


 であるならば、念を込める必要もなくなった今、特に迷う必要性は皆無となり手に当たった一番近い券を手に取った。

 箱から出てきた僕の右手に掴まれる赤色のカードには2番の文字。

 察するに同じ2番を持った人とチームを組む事になるのであろう。


「お、一樹は2番かー、うしっ。それじゃ次は俺な」


 僕の番号を確認してから続いて要もクジを引いた。


「俺は3番だな。まぁ、レーンは隣どおしだ」


「そうだね」


 微妙なフォローを貰いながらも僕の配属先は決定したのである。

 1番レーンが良かったなぁ、端っこだし。

 角って落ち着くよね。


「それじゃあ、次は遠藤さんね!ごめんね、最後で」


 はぁー、と自分がこれから赴くレーンを遠目に見ていたら、パタパタと津田さんが遠藤さんの元へと駆けて行き、最後のクジが入った箱を差し出していた。


「いいえ、大丈夫ですよ」


 しかし、遠藤さんは御気になさらずといった具合で透き通った声で返事を返し、にっこりと最後の一枚を手に取る。

 うーん、性格がいいというか、損しているというか。

 あの笑顔ってなんだか逆に怖く思えるんだよね。

 僕の雑念は他所よそに皆が……、主にイケてるメンズ達が見守る中、遠藤さんの持つ券に描かれた数字は2番という文字であった。


「私は2番ですね」


 そして皆に見えるように改めて遠藤さんは掲示した。

 にっこりと笑顔も忘れない辺りちゃっかりしている。


「くっそおぉおお!!」


 その瞬間、多数の落胆する者がいればガッツポーズを決める者が現れた。

 何番だった?と改めて自分と知人の番号の確認をし合う者もいれば、レーンの確認をする者と、まさに十人十色といった具合だ。


「あ、一樹、遠藤さんと同じチームじゃん」


「交換する?」


 すかさず僕は自分の手に持つ2番の券を要に差し出すが「いや」と断られた。

 なんだよう、少しは考えろよう。

 

「んー、気持ちは分からんでもないがあまりそういうことは言わないほうがいいな」


「あー……、そうだね。迂闊だったよ、うん、僕が悪かった」


 ここぞとばかりにこの券を狙っている男子ハイエナから鋭い眼差しを浴びる。

 フェアプレイって大切だよね。

 しかし、なんでこういう時って低いほうの確率が引けちゃうんだろうなぁ。

 不満を漏らしていると僕の2番と描かれた券は指先で弄りすぎたのか、少々皺が目立つ様になってしまっていた。

 残っていた券のうち2枚が2番でそれを当ててしまうなんて、運があるのか無いのか。

 ここで券を譲り渡せばきっとその一人からの高感度は絶大な物を得ることが出来るだろう。

 しかし、それ以上に敵が出来る事を先ほど身を持って知った僕は悪手になると思い交換は諦めるのであった。


「それじゃあ、みんな自分の番号のレーンに移動してねー!優勝チームには景品を用意してあるからガンバロー!」


 津田さんの指示により、各々が自身の握る券と同じ番号のレーンに入っていく。

 僕もそっと2番レーンに入り、ちゃっかり席を確保してからそそくさと自分に合った重さのボールを探しに行った。

 イケてるメンズ達に目をやると、どうやら11と12ポンドのボールを選んでいるようだが僕には重くて、とてもじゃないがあんなのは投げられない。

 あんなの投げたら腕もげるよね。

 そうして数あるボールの中から8ポンドという比較的軽めのボールを選び、2番レーンへと持ち帰った。

 なんだい、男子は重たいボールを使わないとダメなルールがあるのかい。


「チーム対抗戦だからみんなで協力して盛り上がっていこー!それじゃあ、各自スタートッ!」


「おぉー!」


 なんだかんだで、皆やる気充分な様で何よりだ。




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