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日陰男と高嶺の花の恋愛ジジョウ  作者: ナナモヤグ
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EP1

「えっと、一緒になってる僕が言うのもなんですけど静かに観戦した方が良いと思いますよ」


 遠藤さんの心情を勘違いでなければそれとなりに感じ取った僕は落ち着きのない日笠さんとついでに要にも伝えることにした。

 

「ん、何故だ?応援というものは声を出さなければいけないだろう?」


 ところがどうやら全くもって察しの悪い日笠さんは、全力で応援することに然程の疑問を抱かないようである。

 いや別に応援することが悪いと言っているわけではないのだけれど、コートの中を陣取ってさらに騒がれたら鬱陶しいことこの上ないに違いない。


「確かに応援は良いと思いますけど、正直この場所で観戦するのってかなり邪魔になると思うんですよね。や、あくまで僕の個人的見解ですけどね」


 まぁ、日笠さんがそうしたいというのなら僕にそれを止める理由はないし良いと思う。

 僕が言いたいのは観戦態度についてである。


「そうだな。普通はコーチや監督くらいしか入れないからな」


 言いたいことが伝わったのか要は僕の意見に賛同してくれる。

 もしかすると実際に試合をしたこともあるおかげで僕の言いたいことが伝わりやすかったのかもしれない。


「では指を咥えて黙って見ていろというのか」


 しかし日笠さんに関してはムッとした表情でこちらを見つめてくる。

 可愛いけどそんな表情をしてもダメですよ、可愛いけどね。


 ところでなんでこの人はこんなに極端な考えしか持たないのだろうかと可愛さとは別腹に一抹の嫌悪感を抱いてしまうがここで僕が一般的正論を告げたとしてもきっと日笠さんは余計に眉間に皺を寄せることだろう。

 今やっていることが正しいと思っている人ほど、扱い辛いものはないし一度否定した人間から次いで否定されてしまうとそれが例え正しくあろうとも大概の人が嫌がるものである。

 これは母親に勉強をしなさいと言われた時の子供の心理に近いかもしれない。

 決して自分の意見は曲げないけれど分かってるよ、とね。


「あれですよ日笠さん、ようするに一樹が言いたいのは遠藤さんだけじゃなく出ている選手の気持ちを考えた上で観戦しましょうということですよ」


 いらぬことを考えてしまい口を出そうにも出しにくい僕の変わりに要が代弁をしてくれた。


「なるほど……、確かに考えてみれば私たちの行動は少々オーバーだったかもしれないな。すまない斉藤」


「あぁ、いえ。応援することくらいは別に良いと思うので観戦する態度だけ改めれば問題ないかと思いますよ」


「あぁ、応援は全力でさせてもらおう!」


 そう言った日笠さんは静かに腰を下ろしてレシーブを返す遠藤さんを見つめていた。


「ありがとう要」


「いや、俺の方こそ一緒になって盛り上がってたからな。気づくのが遅くなって申し訳ない」


 小さく要に先の御礼を言うと、自分の悪さ加減を理解したのか僕に謝罪の言葉を述べた。


「確かに遅かったね」


「……容赦ないなお前」


 二度と同じ事を繰り返さぬよう徹底してあげないとね。

 ところで何度も注意しているのに度々、知らない友人を喫茶店バードに連れて来ることは直らないのだけれどどういことだい要君。


――・・・


 現在、僕と要はコート内のさらにいえばサービスラインにラケットを握った状態で立っている。

 どうしてこうなったのか、僕は要の行動に対して非常に頭を抱えるばかりであるが経緯いきさつとしてはこうである。


 その後着々と試合は進行していき、隣で日笠さんが「あぁっ!?」や「よしっ!!」など小さく握りこぶしを作ったりしている様子に悶えながらもトーナメントは終局へと向かっていったのだった。

 結果からいえば遠藤さんは第一試合では負けてしまったものの、敗者復活戦にて見事回帰することに成功しメンバー入りすることとなった。

 この時ばかりは日笠さんも嬉しかったのかすぐさま駆け寄っていって遠藤さんと対談していた。


 では試合が終わったというのに何故テニス部でもない僕と要がコート内にいるのかと疑問を抱くことだろう。

 その答えは要の昔馴染み、修ちゃんが関係してくることであった。

 

 大学からテニスを始めた要の昔馴染み、もとい修ちゃんの試合を観ていたが初見の僕でも判ることが数点あった。

 まず、言ってたように足が遅い。

 これに関してはいずれは技術的な面で補える部分が出来るので問題ない。

 そして打ち合いが弱い。

 強豪校ともなれば互いがミスを誘うようなコースに狙って返すのが当然の技術になってくるが修ちゃんに関して言えば返すのがやっとといったところだろうか。

 最後に、修ちゃんがダブルスで組んでいる人はパーマの部長であるということだ。

 これが今回一番の"反感"を買う理由になってしまったのかもしれない。


 修ちゃんたちの結果としてはダブルスで5組中なんとかギリギリで3位の入賞を果たしレギュラーメンバーに入れたものの周囲からの祝勝とはならなかった。


"中瀬先輩じゃなければ島根先輩はもっと上にいけるのに"

"なんで中瀬先輩と組んでいるんだ"

"コネでも使ってんじゃないのか、仲良いみたいだし"


 これらは全て観戦中に聞こえてきた部員からの言葉である。

 断片的にだけれど判ったのはどうやら修ちゃんは中瀬、パーマの部長は島根というらしい。


 観戦客ギャラリーはというと遠藤さんにしか興味がないからか、男の試合には全く見向きもしていなかったが、部員達にとっては違ったようである。

 僕目線では大学から始めたと言われなければ気がつかないほどに上手だと感じた修ちゃんであったが、やはり強豪校の中ではどうしても経験不足が浮いて出てしまう。

 しかし、後衛の部長と前衛の修ちゃんのコンビは然程悪くないようにもおもえるところがあった。


 それは前衛に付いた時の修ちゃんの守りの堅さである。

 動きは遅いものの正面に来たボールは全て捌いてみせる強靭的な精神力を持ち、まさに怖い物知らずといったところだろうか。

 正面から全力でトップをかまされようとも止めて見せた時は同じ前衛として少なからず尊敬したものである。

 また、後衛にいるパーマの部長も他の後衛陣より抜き出た強さを持ち、攻撃的な攻めを得意とするのか修ちゃんがいることによって飛んでくるコースが絞られており戦いやすそうではあった。


 しかし、やはりラリーが出来ない分どうしても部長の負担が増えてしまい結果としてスタミナ切れからなんとかレギュラーメンバーに食い込めたのが現実だった。


 そして修ちゃんへの批判や反感が集まってしまったという結果に至るのだが、ここだけで見ると部内での話し合いで決着がつくはずなのだけれど要がらぬことを言ったものだから僕まで巻き込まれてしまった。


"これ以上、修ちゃんへの悪口は俺が許さない。文句あるやつはテニスで戦え!!"


 なんて格好良いんだ要君。

 確かに、その通りだとこの時ばかりは要のいう事に賛同した僕であったが後に後悔することとなる。



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