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日陰男と高嶺の花の恋愛ジジョウ  作者: ナナモヤグ
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気持ちと実力は比例せず、語るは己の技術のみ

 眼鏡の鼻あてが擦れたところに触れるたび少々の痛みが走るため僕は眼鏡をずらして掛けながら試合が始まる経過を眺めていた。


「なぁ一樹、やっぱりそれ消毒した方がいいんじゃないか」


 心配されるほどに痛々しい傷口になっているのだろうか、横に座って同じく観戦する要から言われた。


「そんなに酷い?」


「いや酷くはないけど、一樹身体弱そうだし傷口ひとつで病気でも貰いそうな気がするんだよな」


「……そっちの方が酷いと思うのだけれど、なにただの擦り傷くらい問題ないよ」


 一体どれほど病弱な体質だと僕は思われているのだろうか。


「多少大げさな気はするが橋爪の言うとおり消毒するなら私が何か貰ってこようか」


「大丈夫ですよ、ツバでも付けておけば治りますし。付けないですけど。それにもう遠藤さんのフイッチ(先攻後攻のジャッジ)が始まりますし」


「そうか、斉藤がお嬢様の試合をそんなに楽しみにしていたとは……私は嬉しいぞ!」


「いやまぁ、はい。そうですね」


 余計な事を言わなければ良かった後悔するが、がっしり肩を掴まれた僕は否定する事も諦めて少しでもこの向けられた熱情を冷やそうと肯定する事に徹したのだった。

 そんなやりとりをしているとラケットを回し始めスムースラフでサービス権のジャッジが行われているが生憎とこの距離と角度からではラケットが回っていることくらいしか判らない。


「斉藤、お嬢様はな。サーブが上手いんだぞ」


「そうですか」


 まだ試合が始まってもないというのに、むしろ試合が始まっていないからこそなのか日笠さんが猛烈に遠藤さんの長所を僕にアピールしてくる。

 だって僕の眼鏡目掛けて打って来るくらいですからね、いや決して眼鏡を狙っていたわけではないとは思うのだけれどあの角度からここが狙えるのであればそれなりと精度は高いのだろう。

 ところで日笠さん。僕に遠藤さんのことを熱弁されたところで反応に困るだけなのだから、出来れば控えて頂きたいのだけれど面と向かって言えない僕の心情を察してくれないだろうか。


「あ、対戦相手の方がサービス権を得たみたいですね」


「くっ……、だがしかし!!お嬢様はレシーブも堪能しておられる。安心しろ斉藤、何も心配するはない!!」


 別にどっちが先にサーブを打とうが僕にとって知ったことではないのだけれど、悔いるような表情を見せる日笠さんを見てしまっては、多分選手はそこまで気にしてないと思いますよとは言えなかった。

 どの道、次のセットになればサービス権が移るのだしさらに言うとするならばファイナルセットまでいってしまえば何回も打つことになるのだから気にするなと言ってやりたい。

 言ってやりたいがしかし。隣で一々熱くなる日笠さんを放っておいてサービスラインにつく遠藤さんたちに目をやることにした。


 対戦相手の方とは違い、肌が白く少し長めの髪はポニーテールにされており、レシーブの体勢を取る遠藤さんは普段からは感じられないどこか煌びやかさを感じ、僕もコートに立つとあんな風に変わるのだろうかと想像してみるが点でダメだった。

 いや、そもそも僕は遠藤さんのような華やかさを持ち合わせていないではないか。

 むしろいたの?と言われても不思議ではない。


――スパーン!!


 自問自答していると硬式テニスをこうやって間近で見る機会が少なかったからか、女性だというのに心地のよいボールを叩く音とそれに見合う速度のサーブが放たれた。


「はっや」


 そのサーブを見て要も思わず声を漏らすが、一度予備動作で軽く跳んでからタイミングを合わせ、見事にレシーブを返してみせる遠藤さんを見てやっぱり上手いのかとここにきて改めて認識した。

 スイングや動作を見ればどのくらいの実力なのかある程度判るのがテニスである。

 さすが強豪校の選抜戦とだけあって下手な人はいないのだなと、遠藤さんには失礼かもしれないけれど全くプレイしているところが想像出来なかったためか少し僕は感動している。


 最近になって妙な接触が増えてきた遠藤さん。

 何が目的なのかイマイチ理解は出来ないけれど、面白い玩具を見つけたかのように頃合を見計らっては予め用意していただろう策を僕にぶつけてくる遠藤さん。

 アホの子だとばかり思っていた遠藤さんが、動いているのだ。


 1ゲーム目からラリーが続き、自然と目でボールを追っていると隣から「凄いだろう?」と日笠さんに低い声で囁かれてぞわりと鳥肌が立った。


「 !? 」


 日笠さん、正直あなたの方が凄いですと心の中で僕は言ってやった。

 おかげで急に耳元で囁かれるとは思っていなかった僕は変な汗を掻いてしまったではないか。


「ははは、一樹は耳元が弱いんですよ」


「そうなのか」


「要、その根拠のない嘘はどうかと僕は思うよ」


 どうしようもないこの二人に溜め息をついた直後、バスッとボールがネットに掛かる音が聞こえ点数のジャッジが聞こえてきた。

 見れば僕達の実にアホらしい馴れ合いとは裏腹に、どうやら真剣勝負そのものの遠藤さんたちの1ゲーム目は遠藤さんがネットにかけて終了したようである。


「あぁ、お嬢様っ!?まだ1ポイントです!!頑張ってください!!」


 そう言って日笠さんはガバッと立ち上がって遠藤さんに声を掛けるが、どこか遠藤さんから睨まれているような気がしないでもないのは気のせいだろうか。

 いや気のせいじゃないな、知り合いが端とはいえ試合中にコート内で遊んでいたら鬱陶しいそのものに違いない。

 まぁ、僕は"来い"と言われたから来たのだと言えば済むことなのかもしれないけれどそれはちょっとあまりにも非道的過ぎるので却下しよう。

 遠藤さんには申し訳ないことをしてしまっているなと再認識した瞬間であった。



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