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日陰男と高嶺の花の恋愛ジジョウ  作者: ナナモヤグ
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EP2

 外に出ると予選落ちしてしまった部員たちが休憩用のテントを張り始めていた。


「あ、遠藤先輩!こんにちはー」


「先輩!お疲れ様です、今日は頑張ってくださいね!!」


 私の姿を見た部員達が次々に挨拶と激励を交わしてくれる。


「えぇ、応援よろしく頼むわね」


 2回生ともなると私にも後輩が出来、こうやって慕ってくれる部員が出来たのだなと実感する。

 そんな心地の良い気持ちも何処へやら、後輩達の声を掻き消すかのようにカメラのフラッシュ音と観客ギャラリー達の声で散布されてしまうのだけれど。


「「遠藤さーーーん!!こっちお願いしまーす!!」」


 正面からのショットを写真に収めたいのかこちらを向いてくれというオーダーが掛かるがそれに答えるサービス精神も義理もないし、一度でも対応してしまえばそれはそれで厄介だろうと私は無視をして後輩たちにだけ「ありがとう」と返した。

 いつもの見慣れた光景に苦笑いを浮かべていた後輩達に少々申し訳ない気分になる。

 一体この観客ギャラリーの中に心から応援してくれている人は何人いるのだろうかと見渡すが男子学生ばかりでしかも各々(おのおの)がカメラ持っているところを見るときっといないのだろうなと溜め息が出そうになる。

 しかし、今日はカメラを持っていない純粋にテニスを観戦しにきた男子学生がいる事を知っている私は何故か分からなかったけれど足取り軽くコートへと向かったのであった。


「おーい、そろそろ試合はじめっからアップ始めろよー。対戦表どおりローテーションで回していくから各自で進行していけ」


 付近まで行くと部長が声が聞こえてきて既に準備を始めており試合に出る部員達に呼びかけているところだった。

 私も急いでコート内に入ろうとするが入り口がカメラを持った人だかりでいっぱいになり迷惑極まりないのだが通れそうにない。

 私を追い回すのは勝手だけれどせめてマナーくらい守ってはくれないものだろうか。


「あの、試合の準備をしたいのでここを通してもらえませんか」


「「はい!!喜んで!!」」


 フラッシュがたかれる中、私が彼らにお願いをすると神話のモーゼが海を割ったかのようにコートの入り口までの道が開かれる。

 ここまで動きが洗練されていると一介の気持ち悪さを感じるが、その気持ち悪い人だかりのアーチを早足で駆け抜けて無事にコート内へと辿り着くのであった。


「晴香ちゃん、今日は一段と凄いねぃ」


「えぇ……、本当にすみません」


「まぁまぁ、晴香ちゃんのせいじゃないことくらい理解してるからさっ、気にせず早くアップ始めなよ。良かったら私と※乱打する?」


「ありがとうございます、是非お願いします」


 コートに入ると既にアップを始めていた楠井先輩が駆け寄ってきてどうやら私のアップに付き合ってくれるとのことなので、すぐに屈伸運動などストレッチを軽く済ませてから走って楠井先輩とは対面になるサービスラインに入る。

 すると、何故かコート内に陣取っている斉藤君たちの姿が目に映った、――いや、正確には視界に入る角度にいるのだから斉藤君ならば意図してやっているのかもしれない。

 しかも桜子と橋爪君がじゃれ合っているように見えるけれど、私がコートに入ったというのに見向きもせずにぼーっとしている斉藤君に少々癪だが腹が立ってしまった。


「晴香ちゃーん、※サブレブからでよろしくー」


「はい、わかりました」


 楠井先輩からサーブから打つようにオーダーされたのでグッと足に力を入れてサーブを打つ形に持っていき、そのままトスを上げようとするが、どうしても楠井先輩と同じラインに見える斉藤君たちが目に入ってしまう。

 

(何を私抜きで楽しそうにやっているよ)


 別に嫉妬でもなんでもないのだけれど、これではいけないと煩悩をかき消すように頭を一度下げてから集中してみるがやはり彼らが視界に飛び込んでくる。

 誘ったのは私だけれど本当になんて所に陣取ってくれたものだろうかと彼らの行動に頭を悩ませそうになるが、きっと一発打てばこのモヤモヤとした気持ちも落ち着くだろうとトスを上げて私は"隣のコート"を目掛けて思いっきりサーブを放つ。

 勢い良く放たれたボールは軽快な音を立てて直線に斉藤君目掛けて飛んでいった。

 

ガシャン――


 直後、数秒足らずしてボールは斉藤君の背後にあるフェンスへと突き刺さり大きな音を立てて静止した。

 あまりの暴球に一同が一瞬シンと静まり返り、レシーブで待機していた楠井先輩に至っては唖然と口を開ける始末である。

 一抹の申し訳なさを感じるが、全て彼らが悪いのだからこれは致し方ない。


「あっ!!ごめんなさーい!"つい"手が滑ってしまって」


 そして続けさまにわざとらしく笑顔で私は言ってやった。

 

「たはー、晴香ちゃんぇ……、すっごいとこに飛ばしたねー」


 楠井先輩がレシーブを受ける体勢で硬直したまま微笑を浮かべている。

 私のサーブを受けようと入れた力の抜きどころが分からないのか、楠井先輩は今にも動き出しそうな状態である。


「あ……、楠井先輩すみませんでした、ちょっと私の知り合いが視界にチラチラ入って目障りだったもので……」


 打つ前に先に言っておけば良かったと思ったが、やってしまったものは仕方ないとありのままを告げる。


「可愛い子ぶっても言葉と行動が比例してないよソレ」


「気を取り直して、サーブいきますねー」


 私の渾身のテヘペロはどうやら楠井先輩には通じないようであった。


――


「はいはい、そろそろ試合回していくから1試合目の奴らは集まってくれー!」


 その後大した練習時間を取ることができなかったが肩を暖める程度には準備が出来たところで、部長から試合を開始するように指示が入り私と楠井先輩はそのままコート内に残る形となった。


「そいじゃ、晴香ちゃん。はじめっから全力でいくからよろしくー」


「はい、こちらこそよろしくお願いします」


 三回生でレギュラー候補の楠井ありさ先輩、パワープレイが得意で私が最も苦手とするタイプであるがやれることはやろうと思う。

 


※乱打――ポイントなど関係なくどちらかがネットにかけるかアウトになるまで打ち合いをする練習のこと。


※サブレブ(サーブ&レシーブ)――サーブする側とレシーブする側を交互に行う練習。そのまま乱打に移行する場合も多い。

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