EP8
しかしうちの大学のテニス部員は一体何人いるのだろうか。
コート内に入ってきた主力メンバーを入れても今見受けられる人数はざっと9か10ペア分、つまり20人ほどといったところだろうか。
強豪校と言われているには随分と少ないような気がしないでもない、とあたりを見渡してみると練習着を着用している学生がちらほらとコート外でベンチ作りをしていた。
それに、あきらかにコート内にいる人数よりも多いのである。
「ねぇ要。選手決めをするにしては随分と人数が絞られているみたいだけど、こんなものなのかな」
こんなものというのは、ある程度の出来レースになっているのではという意味である。
不思議に思った僕は要に問う。
「んー、そういう見方もあるかもしれないけど多分それは違うな。一樹は大学の一般的な大会の仕様を知っているか?」
「確かシングルスとダブルスの混合でしょ?」
「まぁ、大体合ってるな。じゃあ、一般的に大学の大会で行われる試合1回に対してダブルスとシングルスの回数は判るか?」
「あー……んー。そうだね、ダブルス2回のシングルス3回くらいじゃないの?」
確かこれくらいの割合だったはずと、昔に聞いた事がある記憶を頼りに答えてみる。
するとどうやら違ったようで要がわざわざドヤ顔で回答をしてくれた。
「それは高校までのルールだな。大学はダブルス3回、シングルスが6回も行われるんだよ」
「多すぎない?」
僕が知っている限りでは、高校までのソフトテニスにはそもそもシングルスがなくて団体戦は2人1組のダブルスで3ペア同士での対抗になり先に2勝あげた方が勝利となり、また個人戦といわれる試合にも2人1組でダブルス登録での出場になる。
つまりソロでの出場、つまるところシングルスという概念が存在しなかったのだ。
「まぁな。ソフトテニスやってたやつは誰もが思うことだな」
そりゃあ、今まで団体メンバーに入ろうと思えば6名と補欠2名、計8名の中に入れるかどうかを争ってきたのだからまさか12人も出場できるなんて夢にも思わないだろう。
「ただうちの大学はシングルス専とダブルス専に分かれているらしいから、その中で競う事になると思うぜ」
「なるほどね。つまりこの中からシングル・タブルで半々に分かれて試合をしていくって事?」
「大方そうだろう。さすがにその割合まではわかんないけどな」
ふーん、となんとなく内容を理解できた僕は再び選手たちに再び目をやる。
先ほどから声をあげているキャプテンらしき男性は天然なのか作っているのか随分と茶髪にパーマを当ててサングラスを着用していたが、人一倍小麦色に日焼けしているあたり日焼けサロンに行ってない限りは練習量も相当なのだろう。
手に持つラケットに目をやると、僕も愛用していたメーカーの物だった。
なんとなくスポーツで自分が愛用しているメーカーと同じ物を持つ人って親近感がわくよね。
「随分と橋爪は詳しいのだな」
間も無くして先ほどからやや置いてけぼりにしつつあった日笠さんが要に言った。
「あぁ。少しとはいえ、この部に参加したことがありますからね。大会の方式くらいは教えて貰ってたんですよ」
「そうなのか。しかし私もお嬢様がここに入部するときは同行していたのだが、どうやら橋爪の姿が記憶にないらしい」
「俺が体験入部したのは入学して少し経ってからですね。声掛けられて入ったんですけど、やっぱり硬式は肌に合わなかったみたいで1ヶ月経たずに辞めちゃいましたが」
「なるほどな。斉藤は参加しなかったのか?」
ぼけっと選手達の使うラケットのメーカーを眺めているとどうやら日笠さんから質問を受けたらしい。
「え、僕ですか?僕はちょっと見学したくらいですかね。要みたく声はかかってませんし」
なにより、僕がスポーツをやっていたと思われてなかったみたいだし。
他にもっと肉付きの良い同期たちが次々と上級生から声をかけられている横で静かに見学していたのを今でも覚えている。いや、別に悔しかったとかそんなんじゃないかね?
むしろ変に期待を寄せられて、蓋を開けてみればガッカリされる方が精神的なダメージが大きいと思うんだよね。
「こんなこと言ってますけどコイツ、ソフトテニスなら多分俺より強いですよ」
ニッと笑ってみせる要。
何気に持上げてくるが、そんなんで僕が堕ちると思わないことだね。……少し褒められるのも悪くないとは思ってしまったのだけれど。
「あぁ、確かにそうらしいな。お嬢様がこの間言っていた……」
「ん?遠藤さん?」
日笠さんの言葉に要が食いついた。
僕も少なからず左に座る日笠さんに対して聞き耳を立てていた。
「え、あぁいや!すまん、今のは忘れてくれ!」
「えぇ!?気になるじゃないですか」
「もう!後生だ勘弁してくれ。こんなこと、お嬢様にばれたら叱られてしまうではないか!」
日笠さんの顔を真っ赤にしながら若干の涙目を浮かばした表情に少しグッとくる。
普段がボーイッシュな言動に、アクロバティックな行動を取る彼女であるが改めてみるとれっきとした女性である。
きっとこの人は執事服さえ着用いなければここの女子大生だと思われること間違いないだろうしそれなりに人気も出るのだろうな、と思う。そう、執事服さえ着用いなければね。




