EP3
まだ少し暑さが残る大学敷地内のメインストリートを通り、僕は帰路に着こうとしていた。
日が差していても汗が滲むようなことはなく、吹き抜ける風が心地良い。
「あ、一樹。今日ってバイトの日だっけ」
そんな穏やかな気分に浸っていると、隣を歩く要からこの後の予定を確認された。
「今日はないよ」
今日はこれといった予定が無い僕は間を空けることなく要に返事をする。
「んー、そうか」
要の方に視線は向けていないけれど、なにやら歩きながら顎に手を当てて考え事をしているようだ。
このまま支柱に当ろうものなら腹を抱えて笑ってやろう、そうしよう。
「あのさ、やっぱりテニスの校内試合。見に行かないか」
「え゛……?」
ちょっとしたハプニングを期待して妄想を膨らませていると、予想斜め上を行く提案が投げ出されどこから出したか判らない声が喉から漏れてしまった。
季節はずれの変な汗がドバッと出てきた感覚が背筋あたり感じる。
「や、そんな露骨に嫌そうな顔するなよ……。実は昔馴染みがこの大学でテニス部に入っててさせっかくだから様子見だけでもしようかなと思ってさ」
「昔馴染み……ね、また女の子かい」
「お前、俺の連れ=女子になってないか?そうだな……先輩、と言えるか判らないけど一つ上の男子さ」
「珍しい」
「あぁ、一樹が俺のことどう見てるかが何と無くわかった気がする」
僕としても要からの評価は知ったことではないけれど、今はこのままテニスコートに行くべきかどうかである。
とはいえ元々から持ち合わせていた答えは「NO」の択一になるのだけれど、なんとなくテニスの試合を見てみたいという気持ちがないわけではない。
「で、どうだ」
少しだけメトロノームの様に揺れていた気持ちに追い討ちをかけるよう、僕からの回答を要が催促してくる。
(けどなぁ、遠藤さんいるしなぁ)
ところがどっこい。なによりも、"これ"が気持ちの振り子を止めるかのように一番の邪魔してくるのだ。
心なしか作り笑顔でホホホと笑っていそうな気がする。
おかしいことこの上ないのだけれど、遠藤さんが目的でなくただ純粋にテニスの試合観戦をしたいという僕がこの大学に限っては異端なのだ。
「あぁ、でも今から行っても場所空いてねぇか……」
要は要でギャラリーで埋め尽くされるコートを想像したのか勝手に落胆し始める。
いや、そこは多分だけど四之宮君に言えばどうとでもなるような気がしないでもないが、ここは敢えて言わないでおこう。
「その昔馴染みの先輩……?って、要にとって師匠的な何かだったりするのかい」
そこまでして見たいのなら君の伝手で勝手に行ってくればいいじゃないかと思うけれど、ことあるごとに僕を誘うあたり何かあるのかもしれないと、要に尋ねてみる。
僕は要の用心棒か何かかな?
「いや」
すると短く否定だけの返事をし、続けさまに僕のほうを向いてこう言った。
「あの人、テニスは大学デビューだ」
そんなに自信満々な顔で言われても反応に困るよ、要君。
えぇ、尚更どうして観たいなんて思うのさ、要君。
「うちって強豪校だってさっき言ってなかった?さすがに成人しているとはいえど、今までキャリアを積んできた人を相手にするのはきついんじゃないかな」
「まぁそうなんだけどさ、あの人のことだからどうせ負けるんだろうけどさ、応援くらいしてやろうかなって思うんだよね」
「うん、まぁ……確かに応援するのは良いことだけれど」
でも正直、少なくとも僕ならボロボロに負けてしまうとわかっている試合を誰かに見てほしいとは思わない。
公開処刑も良いところである。ましてや代表決めの試合なら手加減なんてしてもらえないだろうし。
いつの間にか歩を止めて、僕達はメインストリートのど真ん中で話し込んでいた。




